「ね〜、芽衣〜」
夕飯も食べ終わり、芽衣と柚子は部屋で過ごしていた。芽衣は勉強、柚子は読書(もちろん百合漫画)という具合だ。
「・・・何?」
「あのね、お願いがあるんだけど。・・・あ、勉強終わってからでいいよ」
「いいわ、もう終わったから」
「ほんと!?じゃお願い聞いてくれる?」
「ええ」
「・・・えへへ」
「いいから早く言って」
「ご、ごめん。あのねちょっとゲームをしてほしくて」
「?ゲーム?」
「えっとね。これ見て!」
と、柚子はスマホの画面を芽衣に見せる。
要するにそこにゲームの説明が書いてあるらしい。見慣れないスマホの画面に顔を近づけて見る芽衣。
「・・・愛してるゲーム?」
「うん!!」
スマホに書いてある説明を読むと、『1人は「愛してる」と言い続け、相手はそれに対して「もう1回」と言い続ける。その過程でどちらかが照れると負けというゲーム!』・・・とある。
「芽衣、どうどう?」
「・・・」
「あ、あの。芽衣?」
「・・・これがどうかしたの?」
「いやどうかしたの?じゃなくてね芽衣。あたしこれやりたいんだよね!」
「誰と誰がやるの?」
「あたしと芽衣に決まってるじゃん!!」
「・・・今やるのかしら?」
「うん!!」
テンション高く騒ぎ立てる柚子とそれとは正反対に盛大にため息をつく芽衣。
「もう寝たいのだけど」
「いや!!すぐ終わるから、ね??」
「・・・」
「いいじゃん!ね、一生のお願い!!」
「あなた、この間も一生のお願いって言ってなかったかしら」
「やだなー芽衣細かいことは気にしない!」
「あなたの一生何回あるの」
「うわー!芽衣に愛してるって言われた〜い!」
「人の話聞きなさい」
「ね!この通りお願い!!」
「・・・」
必死にお願いする柚子に芽衣はしばらく考え込んでから、
「・・・仕方ないわね」
髪をかきあげながらため息をつく。
「いいの!?やったー!!」
「じゃ、早くして」
「ん〜、もう芽衣はせっかちだなあ。じゃ言うよ?」
「ええ」
何故かベッドの上でお互い正座して(芽衣が行儀がいいので柚子もつられる)向かい合って見つめあう。
「・・・愛してる!」
「もう一回」
「愛してる!」
「もう一回」
「(以下略)」
そして10分後。
「・・・あの、芽衣?」
「何?」
「なんていうか・・・。す、少しは何か反応してくれると・・・」
「だって、照れたら負けなんでしょう?」
「ま、負けるの嫌だから照れないの?」
「そうね」
「うーん。芽衣は負けず嫌いだねえ・・・」
「もう寝ていいかしら」
「だめだよ!!まだ芽衣が言ってないじゃん!!」
「・・・嫌よ」
「えー!!だめだよそういうゲームなんだからさー!!」
「くだらない」
「お願い芽衣〜、言ってよ言ってよ〜!」
「嫌よ連呼するなんて」
「じゃ一回だけでいいから!!ね、この通り!!一生のお願い!!」
「だから、あなたの一生何回あるの」
「そんな突っ込みいいからさ、お願いだよ〜!」
大騒ぎする柚子にため息をつく芽衣。
「・・・仕方ないわね。言ったら終わりよ」
「やったー!!さ、芽衣早く言ってほらほら!!」
満面の笑みで芽衣の言葉を待つ柚子。
しばらくの沈黙のあと、芽衣が少しためらいながらも口を開いた。
「・・・愛してる」
そしてまた沈黙のあと、柚子はベッドをばしばし叩きながら悶絶して、
「うわーうわー!!すっげー破壊力!!もうサイコ〜!!」
「わかったから、もう寝・・・」
「ひー!!しまった録音するんだった!!あたしとしたことがうかつだあ〜!」
「ちょっと、今何時だと思ってるの。いいかげん静かに・・・」
「あー!今の電話の着信音にしたかったー!!あ、目覚ましでもいいか!!」
「・・・」
一向に静かにする気配のない柚子に芽衣は静かにさせる一番いい方法(柚子のみ有効)を実行することにした。
騒ぐのをやめない柚子を強引に引き寄せて芽衣はその唇を押し付ける。
「ちょ、ちょっと芽衣、何を・・・んんっ!」
「・・・黙って」
唇が離れて、飼い主に怒られた犬のように静かになる柚子。
「はい、わかりました・・・」
芽衣は今日何度目になるかわからないため息をついて、布団に入る。
「おやすみなさい」
「いや、あの。あたしちょっと興奮してるからそんなすぐ寝れそうにな・・・」
困ったように言う柚子の耳に聞こえてくる芽衣の寝息。
「うーん。相変わらず寝るの早いなあ・・・」
仕方ない。眠れそうにないから、芽衣の寝顔でも眺めていよう。
もう夢の世界であろう芽衣の額にそっとキスをした。
その髪を起こさないよう静かに撫でる。
「・・・いつか、また愛してるって言ってね、芽衣」



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