放課後の誰もいない教室であたしはひとり椅子に座りながらため息をつく。今日はユズっちは何やら夕飯とか色々買い物をしないといけないとかで先に帰っていったのだが。
「なんだかなあ・・・」
最近の悩みはユズっちと会長が結婚だのとかまでいってるにも関わらずユズっちを好きな気持ちがなくならないというか恋することをやめられないことだった。あたしは思わずきちんと好きと伝えたつもりがユズっちはまったくわかってないのが頭が痛い。まあそのユズっちの鈍さのおかげでユズっちと仲良くし続けられるのが嬉しい反面、いつも近くにいる上に無自覚に抱きついたりしてくるせいで恋心がなくならないというかあきらめきれないのがつらいところでもある。
・・・なんて考え込んでると。
「谷口さん、今少しいいかしら」
声のする方を見ると会長がいた。教室に誰もいないのを確認したからかゆっくりあたしのほうへ近づいてくる。
「ん?あ、またなんかユズっちがやらかしたとかか?」
ただの相談とかだと思ってそう気軽に言ったけど会長が首をふり否定するのでなんだかすごくやばい気持ちになる。その予感は当たっていたようで。
「確認しておきたいのだけど、あなたはまだ柚子のことが好きなのかしら?」
「あ、えーと、だな・・・」
会長の目を見てあたしは嘘はとおらないと思ったので正直に答えた。
「やっぱその、わかる、・・・か?」
あたしが言うと会長はため息をつく。
「ええ。すごいわかりやすいわよ」
「ま、マジか、うーん。いやユズっちをとるとか絶対にないからな、ほんとに」
「わかってるわ、ただ一応確認しておきたかっただけなの」
「ん?確認してなんか意味あるのか?」
「意味というか、気になるし嫌なのよ、誰かが柚子を好きなのが。だから把握しておきたいのよ」
「へえ。そんなもんなのかな。あたしより他を気にしたほうがいいんじゃないか?ユズっち好かれまくりだし」
「でも谷口さんが結局一番柚子と一緒にいるし柚子も谷口さんを好いてるじゃない」
「え?友人として好いてくれてるだけだぞ?」
「それが嫌なのよ」
「うわ。なんかあれだな、意外と会長もかなりユズっちがほんとに好きなんだな、友人にまでそんなに嫉妬するなんて」
「そのとおりだけれど、何かいけないかしら」
「そ、そんなきつい目するなよとにかくあたしが何かするのは絶対にありえないからさ」
「ほんとうにそうならいいのだけど」
「いやだってさ、あたしはユズっちと会長が別れたというか一旦離れたときも何もしなかったしさらに二人がくっつくの応援したんだぞ?」
「・・・確かにそうね」
「だろ?だからあたし以外を気をつけたほうがいいぞマジで。ユズっちの人気半端ねーからさ」
「・・・わかったわ」
会長が言った途端あたしのスマホが振動した。
「あ、いやこれはそのっ」
「いいわよ、見ても」
あはは、とごまかし笑いしながら見た画面にはユズっちからのメッセージが届いていた。その内容にあたしは思わず苦笑しながら会長に告げた。
「ユズっちからのメッセージだったぞ。『早く芽衣が帰ってこないかな待ち遠しいなあ』だってさ」
その時の会長は少し顔を赤くして、嬉しいのと恥ずかしいのが混ざったような表情をしていて。たった何気ないこのメッセージひとつでこんな表情をするなんて会長はやはりほんとにユズっちが好きなんだなとあたしはしみじみと思うしかなかった。


家に帰り部屋に入った途端私は柚子をベッドに押し倒した。驚き半開きになっているその唇を強引にキスをして舌を絡め取る。戸惑っていた風な柚子も次第に答えてくれてしばらくお互いの口内を貪り合って、やがて息が続かなくなり苦しくなり唇を離す。すると柚子が私を抱きしめながら優しい声で穏やかに聞いてくる。
「芽衣、何かあったの?」
「その・・・」
あなたに好いてる友人がいるのが嫌。そんなことを言ったら心が狭いと軽蔑され嫌われるだろうか。しばらく間があく。私を落ち着かせるようにずっと背中をなで続けてくれるその手の感触と柚子の温かい体温に安堵して、私は正直に告げた。
「あなたが誰かと一緒で楽しくしている、それだけがどうしても嫌なの」
「・・・うーん。嫉妬というか、あれかな。あたしの中にある愛情が100あるとしたらそのなかの100すべてが芽衣にいかないと嫌ってかんじかな?」
やはり柚子はよくわかっている。うまい表現でそのとおりだから。
またしばらく間があく。すると柚子は聞いて?と小さく言い私の耳元で囁く。
「あのね、あたしが好きなのは芽衣だけだよ。だから好きな気持ちは芽衣にしかないしちょっと恥ずかしい言い方だけどあたしは芽衣だけを愛してる。だからあたしは芽衣に結婚を申し込んだんだから。友人に対する好きとは違うよ。友人を好くのは遊んだり話してて楽しい仲間なだけで、普通に好きなだけ。好きな食べ物とか好きな本とかそれと似たような好きでしかないんだよ、ね?」
柚子の腕のなかで耳元でこんなこと囁かれたら納得し落ちるしかない。言葉にするのが苦手な私はわかったという意味できつく柚子に抱きついてその胸元に顔を擦り寄せた。
すると柚子は少し笑いながらこんなことを言う。
「ママが帰ってきたら夕飯にするけどもそれまであと2時間くらいなんだけどずっとこうしてていいかな?」
抱きしめてくれてる柚子の腕の力が強まる。
「いいわよ。あと・・・」
「?」
言おうかどうか迷ったが思い切って言ってみる。
「夕飯のあともまたこうしてくれる?」
「ふふ、もちろんいいよ」
笑う柚子に恥ずかしくなってそれをごまかすように顔を上げ強引にキスをした。




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