「雨やまないなあ」
窓の外を眺めながら柚子が言う。
「デートしたかったのにな?」
「天気だけは仕方ないわよ」
「うーんそうだけどさあ」
あきらめきれないのか雨を眺めている柚子に私もため息をついた。天気予報では雨とは言ってなかったのに。柚子ががっかりするのも無理はないなと思った。
何もしゃべらない柚子が珍しくて振り向いてその姿を見ると、どこか寂しげで。
「柚子?大丈夫?」
「あー。いやなんかちょっと思い出しちゃって」
「昔のこととかかしら?」
「そうだねえ」
「何を思い出したの?」
「んー。いやなんか。確か、パパがいなくなった日もこんなふうに雨がふってたなあと思って」
そうつぶやく彼女があまりにも寂しそうに見えて。
「柚子」
「ん?」
「・・・ちょっとこっちに来て」
「う、うん?」
少し戸惑う柚子の腕を引いて強引に隣に座らせる。
「え、えっと、なんか心臓に悪いねあはは」
「黙って」
「う、うんごめん」
そう言う柚子の顔は真っ赤だった。恋人同士になってもう結構立つのにいつまでも反応がかわらないからこちらまで意識してしまう。
「・・・柚子」
「ん?」
「あなた、私に何かしてほしいことないかしら?」
こんなまわりくどい言い方しなくたって、寂しいなら私がいるからと言えばよいのになぜかそれは恥ずかしくて。
「してほしいこと?うーん。何でもいいの?」
「ええ」
「んっと。じゃあ・・・」
少し間があいてから柚子がこちらを向いて言う。
「目が覚めたときに、隣にいてくれる?」
「・・・」
その一言に彼女がいかに寂しいのかがわかる気がして。思わずその手を握った。
「いいわよ」
「ほんと?嬉しいなあ」
にこにこ笑う柚子に聞いてみる。
「お父さん早くに亡くなられたし、寂しかったでしょう?」
「ん?別に寂しくなんてないよ、そんなこと思ったことないもん」
「だってひとりなのに?」
「そうだよ、ずっとひとりなのが当たり前だから寂しいなんて思わないよ」
「・・・そう」
誰かがいたことがないから寂しい感情もなかった、と。それを聞いて今までの自分が恥ずかしくなった。私は確かに父がいなくて寂しかったけどそれは約5年間のこと。それに亡くなってはいないから柚子とは違う。それに対して私は自分がかわいそうで柚子をやけになって襲ったりしたのだ。それでも柚子は私を見放すことはなかった。彼女の心の広さには感心する。持って生まれたものかもしれないけど。
なんて考えながら柚子を見ると何やら眠たそうに目をこすっている。
「眠いの?」
「んー。なんかお昼たくさん食べたからかなあ」
たくさん食べたから眠いだなんて柚子らしいなと思った。
きっと今までもひとりで過ごしてきたわけだけど。いたたまれなくなって思わず柚子をこちらに向かせる。
「?」
不思議そうな彼女に唇を押し付けること数秒。
「な、何するんだよっ」
「別にキスしただけよ、いけないかしら」
「い、いやいけなくはないけど、ちょっといきなりってのは・・・」
「嫌ならもうしないわ」
「い、嫌じゃないよ!ただこう心の準備がっ」
真っ赤な顔で慌てふためく柚子を見てなんだかなあと思った。この調子だと一生こういう反応するに違いない。
「眠いなら少し寝ましょう」
「うんそうしようかな」
で、二人一緒に布団に入る。
「ん?一緒に寝るの?」
「私も眠いから」
「あはは、じゃ一緒に寝ようか」
柚子は本当に眠いらしくうとうとしてたが眠ってしまったようで寝息が聞こえてくる。その幼い子供みたいな寝顔をしばらく眺めていたら眠気がこちらに伝染してきたので眠ることにした。
目が覚めた時に隣にいると約束したから。
絶対に離れないようにその手を握って体を寄せて。そしてそのまま静かに目を閉じて眠りについた。

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