なんか、おかしいな。
けたたましく、なる目覚まし時計を止めて目を覚ました柚子は自身の身体がなんとなくいつもと違うなと感じた。
なんだろうなと考えたがわからないので考えることをやめて、とりあえず起きて学校へ行く支度をする。
と、その前に。忘れてはならないことがある。それは隣で眠っている愛しい妹を起こすことだった。
「芽衣、朝だよ。起きて〜」
目覚まし時計でも起きない芽衣だが柚子が起こすと目を覚ます。それがかわいくてしかたなかった。
「ん・・・」
やっと目を覚ましたらしい芽衣に、
「じゃあたし先にご飯食べてるね」
まだ眠そうな芽衣の頬にそっとなでて、柚子は部屋をあとにした。

「芽衣、おはよう」
「おはよう」
柚子は支度をすませ、おまたせと言って洗面所から離れる。
「ずいぶん早いわね」
「うん。ご飯食べてないからね」
柚子の言葉に芽衣は、
「どうして?」
と不思議そうに訪ねてくる。
「うーん。なんか食欲なくて」
「大丈夫?」
「うん大丈夫」
お昼はたくさん食べるよ、と笑っていうと、そう、と芽衣が呟く。
「玄関で待ってるから」
芽衣と登校するようになってから朝早くなったな、としみじみ思いながら洗面所を後にする柚子だった。

異変を感じたのはちょうど学校に着いた時。
生徒会室へちょっと用があると言う芽衣とさよならして、自分も教室へと行くべく学校の下駄箱で靴を脱ぎ、上履きに履き替えたのだが。
・・・なんか、ちょっと気分悪いなあ。
うまく言えないのだが気持ち悪い。といっても吐くとかそういうわけではないかんじで。
まあとりあえず教室行こう教室。うん。
そんなことを思いながら廊下を歩きだす。
でも自分が思ってるよりも自分の体は深刻なことになっていたようで。
歩いてる途中に、どんどん血の気が引いていく。
すごく、気持ち悪い。どうしよう、教室までもつか。
こういうのは初めてではない。なんだろう、とくらくらする頭で必死に考える。
・・・そうだ、貧血だ!
こういうときは近いはずの教室が遠く感じる。
階段のぼるのきついなあ、と思いながら、手すりにつかまってなんとか足を進めていたけど。
・・・やばい、だめかも。
あまりの気持ち悪さと、そして視界が暗くなっていく。
どうしようもなくなって耐えられずその場に座り込んだ。
冷汗が頬をつたって流れてくる。
誰か、助けてくれ!
・・・と思っていると。
「ユズっち!何してんだこんなとこで」
聞きなれた声に柚子は答えようとしたが声が出ない。
はるみんが来たなら助かった。ちょっと安堵する柚子。
「おーい。具合でも悪いのか?大丈夫か??」
「ちょっと、やばいかも・・・」
心配そうに声をかけてくれるはるみんに必死に答える。
「うわ!顔色真っ青じゃん!ユズっち、立てるか?」
問いかけに首をふる柚子。
「やばいな。ここから保健室まで結構あるからなあ・・・。でも保健室行かないとだな、ほれユズっちつかまれ」
差し出された腕に必死につかまった。はるみんにもたれかかりながらなんとか歩き出す。
保健室まで、頑張って行くしかない。
「もう少しだ、頑張れ〜」
はるみんの声が遠い。よくわからないけどもうすぐ保健室のようだった。
「・・・げ!!」
「え、何?」
はるみんの驚いた声に何事かと思ったがどうにもこうにも顔を上げることができない。
「どうしたの?柚子」
聞き間違えようのないこの声は。
「・・・芽衣?」
見なくても、わかる。もしかして、怒るだろうか。それとも。
「ユズっち貧血みたいなんだよ会長」
だから、そこどいてくれ。冷たい声ではるみんが言う。
「保健室へ行くのかしら?」
「ん。そういうこと」
そう、とつぶやく芽衣にはかまってられないとはるみんは歩き出す。
芽衣に心配かけちゃうな・・・。
そう思ったのを最後に記憶が途切れた。

「・・・あれ?」
気が付くと視界には白い天井。
「ああ、貧血でぶっ倒れたんだっけ・・・」
それで保健室のベッドに横になってるわけか。ひとり納得する柚子。
「ん?」
ふと横に人の気配を感じて振り向くと。
「うわ!芽衣っ!」
ベッドの脇の椅子に座っている芽衣を見てびっくりして思わず叫ぶ。
芽衣はどうやら寝ていたらしい。
「おーい。芽衣ってば」
体を起こしても、もう大丈夫だろう。起きて、芽衣の顔にそっと触れる。
「・・・柚子?」
芽衣が目を覚ます。
きょとんとした目が可愛いなと思った。
「もう、大丈夫なの?」
「うん。心配かけてごめんね芽衣。時間大丈夫?」
「ええ」
芽衣はいつから、いてくれたのだろうか。心配してくれたのかなと思うと嬉しいなと思う柚子だった。
「キス・・・」
「え?」
「朝、キスしなかったから」
「・・??」
芽衣の言いたいことがわからなくて、その顔を見つめると、芽衣は少し顔を赤らめながら言った。
「キスしてたら、体調が悪いって気づけたのに」
「・・・唇の温度でわかるのかな?」
「そうね」
そういえば、今日は朝キスしてない。別にたまたまなんだけど、もしかして。
「・・・キス、したかった?」
そっと手を伸ばし芽衣の唇を指でなぞる。
キスしたいなんて答える芽衣ではない。
でも、黙ったまま潤んだ瞳でこちらを見つめてくる芽衣がいじらしくなっって、
「じゃあ、今してあげる」
芽衣を抱き寄せ、強引に唇を重ねた。

「あー。芽衣いいの?食べなくて」
二人で帰ろうとしたのだが何も食べてない柚子はお腹が空いてしまって耐えられなくて近くのハンバーガーショップへと駆け込んだ。
寄り道はいけないと叱る立場なはずの芽衣だが一緒についてきてくれた。
こんな風に芽衣と学校帰りに寄り道するなんて初めてなのでなんだか嬉しい。
「今食べたら、夕飯食べられないでしょう」
「んー。それもそうだね」
もくもくとハンバーガーを食べる柚子と静かにアイスコーヒーを飲む芽衣。
「あのさ、夕飯何食べたい?」
「いいわよ、何でも」
「えー。何でもってのが一番難しいんだけどな〜」
そんな会話をしてるうちに食事を終える二人。(といっても芽衣は食べてないけど)。
「さて、夕飯の買い物行くか!」
立ち上がって片付けようとトレーを持つ柚子の裾をつかむ芽衣。
「ん?何?」
「私も・・・」
「うん」
優しくうなずくと、芽衣は小さい声で言った。
「私も、一緒に行ってもいい?」
芽衣の可愛らしいお願いに柚子はにっこり笑ってその手をぎゅっと握った。
「もちろんだよ」



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