あたしの朝は大変だ。
何が大変って。自分のことだけじゃなく、芽衣の面倒も見ないといけないから。
芽衣は朝が弱い。それがまた可愛いんだけど、可愛いとか言ってられない。変なことなく(?)無事学校に行くまで注意しないといけないのだ。
「おーい。芽衣、起きて〜」
とりあえず芽衣を起こす。芽衣は目覚まし時計でも起きないから、あたしが起こさないといけない。
「・・・」
起きたけど、ぼーっとあさっての方向を見たまま動かない。こりゃまだ半分寝てるな、と思いながら芽衣の手をとる。
「ほら、足元気をつけて」
一度芽衣が寝ぼけてベッドから転げ落ちたことがあるのでそれ以来気をつけてる。怪我でもしたら大変だし。
「芽衣、起きたかな?」
あたしの問いかけに芽衣は答えない。頼むからちゃんと起きてくれ〜。
最初はあまりの寝ぼけ具合にびっくりしたけど、もう慣れてしまった。
再度気を付けて、と芽衣に言いながら一緒に洗面所へと向かうのだった。

なんとか着替えた芽衣だったけど、なんか、色々間違ったことになってるのであたしはそれをなおしてあげる。
まず、シャツのボタンを掛け違えてるので、
「芽衣。ちょっとじっとしてて」
そう言ってなおしてあげようとするとあたしが何をしようとしてるのかわからないようで不思議そうにこちらを見つめてくる。
こりゃまだ目が覚めてないな、と思ったがそんなこと言ってもどうにもならないので芽衣の視線は無視する。
「はい、いいよ」
あたしがそう言うと芽衣は歯磨きをしようとしてるみたいで鏡のそばにある歯ブラシへと手を伸ばしている。
まさかな、と思ったがやっぱり。
あたしは慌てて、
「芽衣、それママの歯ブラシだよ」
まあ歯ブラシなんてどれも同じようなものだから間違えても仕方ないけど。そんなことを思いながらあたしはちゃんと芽衣の歯ブラシをとってその手に握らせてあげる。
ついでに歯みがき粉もつけてあげて、うがいもできるようにコップに水もいれてあげた。ちなみに同じコップを使っているので毎朝間接キスに間接歯みがき粉で嬉しいのは内緒だ。
さて、あたしも歯磨きするか。そう思って自分の歯ブラシをとって歯磨きしようとしてたら、
「・・・っ!」
声にならない芽衣の悲鳴?が聞こえたのでびっくりして、
「芽衣、どうしたの?大丈夫?」
歯ブラシくわえたまま固まってる芽衣を見て、これは舌噛んだな、と思って芽衣にコップをわたす。
舌噛むのって結構痛いからなあ。
「もういいからうがいしちゃいなよ」
水入ってるからね、と言うあたしの言葉は耳に入ってるようで言われるがままうがいする芽衣。
うがいの仕方まで可愛いな、と思って見ていると歯磨きを終えた芽衣は洗面所から立ち去ろうとする。
「あー。芽衣、口に歯みがき粉ついてるよ」
あたしは芽衣を引き留め、ティッシュがなかったので迷ったが指で芽衣の口元をぬぐってやる。
朝からこんなことしていいのかと思ったが、嬉しいのでよしとしよう。
朝ごはんを食べに向かった芽衣を見送って、あたしは自分の準備をすませるのだった。

あたしと芽衣ではパンの食べ方が全然違う。かじりついて食べるあたしと違って芽衣はご丁寧にもパンをちぎりながらそれを口に運ぶ。その仕草が可愛いんだなこれが。
本当はずっと見ていたいけどママに何してるんだと言われかねないので仕方なく我慢する。
「柚子、今日はママ帰るの遅くなるから」
「あ、そうなんだ。わかった〜」
ということは芽衣と二人きりかいいぞ〜よしよし。
にやつきそうになるのを抑えて、
「ママ夕飯はどうするの?」
と冷静を装って会話する。
「ああ、ママ適当に外で食べちゃうから、芽衣ちゃんと二人で食べてなさい」
「は〜い」
さて、食べ終わったし学校行くか。
そう思って芽衣のほうを見ると、芽衣も食べ終わったみたいでお茶を飲んでいる。
ふとテーブルにあるみかんが目に入ってきて、あたしは何気なくそれをひとつとり、芽衣に渡す。
「はい、芽衣これ。みかん食べなよ」
「・・・でも時間が」
「まだ大丈夫だよ〜」
そう、と芽衣がつぶやいてみかんを食べようとする。
あたしもひとつ食べるかな。そう思ってみかんを手にとり何気なく芽衣を見ると。
芽衣がみかんの皮を向くのに必死になってるのであたしは思わず笑いそうになったがなんとかこらえる。
芽衣は本当に不器用だ。でもそれが可愛い。
「芽衣、それかして」
あたしはさりげなく、芽衣のみかんをとってぱぱっと皮をむき、
「はい、これ食べて」
と渡すと、芽衣は言われるがままにそれを食べる。
もごもご食べてるのが可愛くて見ていたかったけどあたしも自分のを食べなくては。まあみかんなんて口に放り込んですぐ食べちゃうけど。
芽衣も食べ終わったみたいなので、あたしはみかんの皮をゴミ箱に捨てて(ちなみに芽衣のも捨てた)立ち上がる。
「じゃ、行こっか!」
無意識に手を繋ごうとして我に返る。いかんいかん。ママがいるんだから手を繋ぐのは外に出てからにしないと。
「行ってきま〜す」
外に出てすぐ手を繋ぐ。おそらく冷え性であろう芽衣の手は冷たいから暖めてあげないと。
そう思ってその手をぎゅっと握ると、芽衣が握り返してくれる。やばい、恋人繋ぎだ。幸せだ。実に幸せだ。学校までもっと長ければいいのになと思いながらエレベーターに乗って、マンションの外へと芽衣と一緒に歩いた。

「芽衣、どうかした?」
口元に手をやって顔をしかめている芽衣にあたしはその顔を覗き込んで尋ねる。
「・・・なんだか、舌が痛くて」
「ああ。舌噛んだからじゃないかな」
「?どうしてわかるの?」
「いや歯磨きしてる時舌噛んでたから」
「・・・そうだったかしら」
「うんそうだよ」
覚えてないんかい。と思ったがそれは言わないでおく。
「舌噛むと痛いよね」
「そうね」
舌が痛いってことは。
「・・・舌が痛いんじゃキスできないね」
って何言ってんだあたしは。慌てるあたしに対し芽衣は淡々と答える。
「深くないキスならできるんじゃない」
「え!い、いいの!?」
「・・・柚子、ちょっと黙って」
「へ?」
「もうすぐ学校に着くわよ」
うわー。それはやばい。あーでも。そんな話ししてたからキスしたくなってしまった。
あたしは思い切って芽衣に言ってみる。
「あの。今、キスしてもいいかな?」
芽衣の頬に手を添えて。
瞳を閉じた芽衣に痛くないようできるだけそっとキスをした。








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