今日はバレンタインデー。いわゆる好きな人にチョコレートをプレゼントする日なことくらいは私も知っているけれど。放課後間近の教室でひとりため息をつく。
要は柚子が誰かからチョコをもらうのが嫌なのだ。そのことで朝から悩んでいる。チョコもらわないようになんて命令とかするのはいくら恋人でも間違ってる気がするしそもそも柚子は優しいからきっと頑張って作ってきたチョコを断るなどしないだろう。そういう柚子の優しさが大好きでもあるし、あと柚子がモテるのはそれだけ魅力がある証拠でもある。恋人が優しくさらにモテまくるくらいの魅力的だなんて素晴らしいこと。だけど、チョコもらう柚子は見たくない。誰かが柚子を好きなのも嫌。矛盾した考えが頭をぐるぐる回り続ける。
と、考え込んでいると何やら廊下が騒がしい。近寄り覗き見ると柚子がドア付近にいて柚子へのひとだかりのようだ。ざっと見た感20人はいる。どう考えてもチョコ渡しに来たのだろうけどちょっと人気ありすぎでは。
ひとりの生徒が柚子に話しかける。
「柚子先輩、あのチョコ・・・」
ああ。やっぱり。柚子がチョコをもらうところなんて見たくないから柚子と帰るまでどこかに逃げてればよかった、・・・なんて思っていた私は次に柚子が言った言葉に心底驚いた。
「バレンタインデーのチョコだよね?悪いんだけど一切、ひとつも受け取れないよごめんね」
信じられない言葉に息を飲んで見守る。
渡そうとして集まっている生徒たちも皆驚き固まる中、柚子はさらにはっきり言った。
「あたしには大切な人がいるから。バレンタインデーで、その人以外からのチョコはあたしは受け取れない」
その言葉に涙が出そうになるがこらえる。
断られた生徒たちはショックだなんだと騒いでいたがやれ柚子先輩なら恋人いるにきまってるだのと色々わめきたてたあとあきらめたらしく去っていった。
「さて、帰るかなー。ん?あ、芽衣じゃん生徒会は今日はないの?」
柚子が私に気づきこちらに寄ってくる。
あふれる気持ちを抑えきれず私は柚子の手を強引に引き誰もいない近くの視聴覚室へ連れ込みそのまま抱きついた。
「え?あの、芽衣?」
戸惑う柚子を見つめて正直にお願いした。
「キスしてほしくなったの。だめかしら?」
柚子は一瞬驚いたように目を見開いたけどすぐにその目を細めて微笑み、私を抱きしめる。
「ううん。だめじゃないよ」
その言葉を合図に唇を重ね合う。
そのまま下校のお知らせの放送が流れるまで人のいない薄暗い教室の片隅で夢中でキスをし続けた。



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