「ふふふ〜ん」 鼻歌を歌いながら上機嫌であたしは夕飯を作っていた。 料理は好きだから、作るのは楽しい。それが恋人のためならなおさら。 「おっと。あまり辛くしないほうがいいかな」 つい、自分の好みで辛い味付けにしそうになるが食べるのは自分だけじゃないから。その辺も考えて作らないといけない。 気分はすっかり新婚さん。・・・って新婚か。いやーまいった、まいったなあ、なんか恥ずかしいなあ。なんて思ってにたにた笑っていると。 「あちっ!」 手がすべってやけどしてしまった。 いかんいかん料理に集中しなくては。 鍋じゃなくて手を焼いたら笑えない。 冷やそうかとも思ったが面倒なのでとりあえず料理を作り終えることにする。 「よーしできた!」 カレーにしたから芽衣喜んでくれるかな。 いやまあ芽衣は何作ってもいつも喜んでくれるけど。 (ちなみににこりとも笑わず機械的においしいと言うので本当に喜んでるかどうかはわからない)。 この頃寒くなってきたのでもう急いで冷蔵庫に入れる必要はなさそうだった。 「芽衣、早く帰ってこないかな〜」 そう。大学生になったって芽衣は相変わらず偉い立場。最低限の単位をとって後は自由に遊びまわってる自分とは違うのだ。まあそれは高校生の時から変わらないんだけどね。だから、芽衣は帰りもやっぱり遅くなることが多い。 テレビでも見て待ってるかな。そう思ってリビングのソファに座った時だった。 玄関の扉の開く音がして、 「・・・ただいま」 大好きな、芽衣の落ち着いた声。 「あ、おかえり芽衣〜」 飼い主を待つ犬みたいにすっ飛んで玄関に駆け寄って迎えに行くと、 「・・・今日」 「うん?」 「またカレー?」 「え?なんでわかるの?」 「匂いでわかるわよ」 「カレーはだめ?」 「別にそんなこと言ってないわよ」 「だって今また、って」 「昨日と同じだからそう言っただけよ」 「なーんだそっかあ」 なんて言ってたら芽衣がため息をついたのであたしは心配になって、 「芽衣?大丈夫?疲れたの?」 「少し・・・」 「大丈夫?早く食べて寝ないと」 「そうね」 あたしは靴を脱いだ芽衣の手をとって、 「早く食べよ〜」 とリビングへ行こうとすると。 「この手、どうしたの?」 「?」 芽衣があたしの手をじっと見ている。 「ん?何?」 「赤くなってるじゃない」 「ああ。ちょっとやけどしちゃって」 あたしがそう言うと芽衣は小さい声で首を傾げて聞いてくる。 「痛い?」 うっげ。なんだその可愛い聞き方は。可愛いぞこのやろう。 痛いって言って舐めてもらおうかとも思ったがまあ芽衣疲れてるっていうからそういうのはやめておこう。 「大丈夫だよ」 と、安心させるように笑顔で言ったのに。 「ごめんなさい」 「なななんで芽衣が謝るの?あたしが勝手にやけどしただけだよ」 「私料理できないから・・・」 「何言ってんの芽衣、できるほうがやればいいじゃん、それにあたしは好きでやってるんだからさ」 「でも他のことも全部あなたに任せっきりで」 「大丈夫大丈夫!家事好きだから!特に洗濯は下着・・・」 「え?」 「あ、な、なんでもない」 「いつも・・・」 「あー!いいの、芽衣はそんなこと気にしなくていいの!」 「でも」 「姉が妹の面倒を見るのは当たり前じゃん。芽衣は妹なんだからそんな心配しなくていいんだよ」 「ありがとう」 「どういたしまして」 ほら早く、と芽衣の手をひいてリビングへ向かった。 「ねえ、柚子」 「ん?何?」 「ちょっと聞きたいことがあるのだけど」 カレーをバクバクほおばりながら(ちなみに芽衣は上品に食べてる)頷いてたあたしは芽衣の言葉に死ぬほどびっくりする。 「合コンって何かしら?」 「ご、ごご合コン!?」 「ええ、なんかそれに出てくれないかって誘われて」 「だだだめだよ芽衣!合コンなんてでたら!芽衣可愛いんだから狙われちゃうよ!ままさかお持ち帰りとかうわあ!いやだー!」 「ちょっと柚子、ご飯粒飛ばすのやめなさい」 「だ、だって!」 「だから、合コンって何なのよ」 「え?知らないの?」 「知らないから何かって聞いてるのよ」 「んーっと。合同コンパの略だよ」 「?」 「んー、なんて説明したらいいかな。要するに簡単に言うと男女の飲み会だよ」 「勉強会かしら?」 「うわ何その真面目な考え。違う違う。まあ簡単に言うと出会いの場だね」 「何でそんな会やるのかしら?」 「うん?だってほら、誰だって出会いほしいじゃん?そこで恋人作っちゃおうってことだよ」 「飲み会ってことはお酒飲むのかしら」 「うんそうだよ」 あたしの説明に芽衣は顔をしかめる。 「学生なのにそんなことするなんて」 「まあみんなそんなもんだよ、遊びだよ遊び」 「そんな学生なのに・・・」 「うーん普通は遊ぶもんだよ芽衣」 まあ芽衣には遊ぶなんて理解できないんだろう。なんか芽衣らしいけど。 「出会いの場なのよね?」 「うんそうだね」 「じゃあ私は行かないわ」 「え・・・」 「だって私にはあなたという恋人がいるから」 「・・・」 「?柚子?」 「うわーん芽衣〜!」 「ちょっ、何で抱き着くのよ一体何?」 「芽衣大好き〜!」 「ちょっと何、カレーが食べられないじゃない離れなさい」 「芽衣〜!」 「あーもううるさいわね」 「芽衣〜!食べさせてあげる!」 「結構よ、いいかげん離れなさい」 「芽衣〜!」 結局芽衣はあたしに抱きつかれたままカレーを食べたのだった。 「芽衣、お風呂一緒に・・・」 「だめ」 「な、なんで!」 「私今日疲れてるのよ」 「疲れるようなことするって言ってないんだけど!?」 「言わなくたってわかるわよ。いつもの自分の行動を思い出しなさい」 「うぐ。じゃ、じゃあ一緒に入るだけっ」 「だめ」 「どーして!」 「だから疲れてるって言ってるじゃない」 「な、何もしないからさ!」 「嘘ね。あなたに限ってそれはないわ」 「芽衣はあたしをなんだと思って」 「あら、詳しく聞きたい?」 「あっいやいいです・・・」 「じゃ私先に入っ・・・」 「あっ待って!じゃあ洗ってあげるよ!」 「嫌よ手で洗うんでしょ」 「いいじゃん!」 「いいわけないでしょあなた頭おかしいんじゃないの?」 「恋人に触りたいのは普通だよ!」 「触られるほうのことも考えなさい」 「気持ちいいんだからいいじゃん!」 「だから疲れてるから早く寝たいのよ」 「やったあと寝れば大丈夫だよ!」 「いつも朝までしてるのに何言ってるのよ」 「そ、それは、それはっ」 「じゃあ入ってるから」 「ま、待って!待ってー!」 「何よ早く言って」 「あの、あのっ」 「早く言いなさい」 「め、芽衣はあたしのこと好き?」 芽衣はあきれたように大きくため息をつく。 「どうしたらそんな会話の流れになるのかしら」 「ねー。答えてよー」 「あなたね。それってコーヒー飲んでる人にコーヒー好きって聞いてるのと同じよ」 「ねえ、好き?ねーねー」 「人の話聞きなさい」 「ねえったらねー」 「もううるさいわね、じゃ言うからそのあと静かにしなさいよ」 「やったー!あ、じゃあ至近距離で見つめながら『大好き』って言ってキスしてください!」 「あなたちょっと妄想癖のありすぎじゃないの頭大丈夫?」 「いいじゃんお願い!」 「うるさいわね、じゃあやるけどこれでおとなしくしなさい、わかった?」 「はーい!わかりました!」 いつでもどうぞと待機するあたしにゆっくり近づいてくる芽衣。視線がぶつかって見つめあう。片方手を伸ばしてあたしの手をとって握る芽衣。そう、キスするとき手を繋ぐくせがあるんだよな芽衣は。 キュッと手を握られてあたしも握り返す。やばい、なんかドキドキしてきた。でも今からさっきあたしがお願いしたことをされるわけだ、逃げてどうする耐えろあたし。 映画かなんかのスローモーションみたいに芽衣の手がすっとゆっくり伸びてその手のひらをあたしの頬に添えられる。 ていうか見つめあい初めてから結構経つんだけど。いつ終わりがくるんだこれ、胸が苦しくて死にそうなんだけど誰か助けてくれー。 「・・・」 もう息がかかるくらい顔が近い。たぶんキスするために息を整えてるのか芽衣がフッと吐く息があたしの唇にかかってたまらず繋いでる手に力が入る。 「・・・。大好き」 消え入りそうな芽衣の声は少し上ずっていて。その台詞とほぼ同時にそっと触れ合うだけの優しいキス。 唇が離れて、固まって動けないあたしから離れてお風呂場へ向かう芽衣。 バタンと脱衣所のドアがしまった後、 「し、死ぬかと思った・・・」 両手で顔を抑えてあたしはその場に座り込んでしまった。 「あー。ほんとに寝ちゃってる」 あのあと芽衣の後に風呂に入ってでてきたらこれだ。まあ芽衣疲れてるんだよねわかってるけど。 「なんだってこんなに可愛いかなあ」 芽衣はよく寝るから寝顔は見慣れてるのに見てて飽きない。なんだろうこの殺人的な可愛さは。何でこんなに可愛いのかな誰か教えて。 「ん?芽衣?」 横向きで顔の前に手を置いて寝てる芽衣の手がもぞもぞと何かを探すように動いてる。なんだなんだ?? 「あの。ちょっと、芽衣?」 何かを探してつかもうとしてるみたいだった。いやまさか。もしかして、もしかしてあれか。いつも手を繋いで寝てるから・・・。 あたしはそのさまよってる芽衣の手をそっと握って手を繋いだ。 そしたら、芽衣がキュッと握り返してきて。芽衣はそのまま安心したようにこちらを向いて寝てしまった。 なんでそんな可愛いことばかりするかな芽衣は。そのうちあたしが脳の血管切れて死ぬっつーの。 手を離せないからあたしも寝ることにする。布団にもぐって芽衣の隣にくっついて。 空いてるほうの手を芽衣の頭にまわして、おでこを寄せてくっつける。なんだか自然と眠くなってきたのであたしはそのまま目を閉じた。 「朝までこの手は離さないから安心して寝てね、芽衣」 |