今日は前から約束していた芽衣ちゃんと二人きりで話をする日。それはかまわないのだがひとつ疑問なのが話し合いをすることもそこで話す内容も柚子には内緒にしてほしいと言われたことだった。柚子に知られたら困る相談とは一体なんだろうか。まあとりあえず柚子がお友達とでかける日を選んだけれど。
なんて考えていたら芽衣ちゃんがリビングへ来た。
「おはよう、芽衣ちゃん」
「おはようございます。すみません・・・」
「大丈夫よ芽衣ちゃん気にしないで。それで、お話って何かしら?」
「あの・・・」
「あ、待って芽衣ちゃん」
「?」
「芽衣ちゃんのお話聞いたあと私からも芽衣ちゃんに少し聞きたいことがあるんだけれどいいかしら?」
「はい」
「ありがとう。じゃ、芽衣ちゃん話って?」
「あの。私は近い将来結婚するんです。私は学院をつぎたいしそのためにはそれはさけられないので。結婚するのは生まれたときから決まっているんです。だから、少ししたらこの家をでていくつもりです。結婚するために色々準備とかもあるので」
「なるほどね。芽衣ちゃんみたいな家柄ならそうしないといけないかもしれないわね。ただお相手のことはもう知っているのかしら?」
「はい。この前会って話をしました」
「そう。その方がいい方ならいいのだけど・・・」
「大丈夫です。優しい方ですし。あとその方も同じ境遇なようなので」
「ああ。芽衣ちゃんと同じ環境なわけね」
「はい」
「なるほど。話はわかったわ」
「あの。このことを柚子が知るまでは柚子には知らせないようお願いします」
「そうするわね。じゃ次は私から聞いてもいいかしら?」
「はい」
「まず柚子抜きで話をしてその内容を柚子には言わないでほしいということは、柚子には聞かれたくない知られたくない内容の話なわけよね。でも話の内容聞いたけどわからないのよ。結婚するのをどうして柚子には知られたら嫌で困るのかしら?生まれたときからの姉妹なら嫉妬するからとかはあるかもしれないわね。でも芽衣ちゃんと柚子は義理姉妹になってまだ1年ぐらいしかたってないでしょう?仲が悪ければいいたくないとかもありえるけれど二人は仲良しだし。だからどうして柚子に結婚することを言えないのかしら?」
私の言葉にあきらかに戸惑う様子の芽衣ちゃんを見て少し笑いそうになった。たぶん芽衣ちゃんはこうして話し合いしてあとは家をでていけばそれで大丈夫だと思ったのだろうけど。私からこう聞かれるとまでは考えが及ばなかったのだろう。まだまだ子供なのかなと思った。
「芽衣ちゃんスバリじゃ聞くけどたぶん芽衣ちゃんは柚子を好きなんじゃないかしら?恋という意味で」
「どうしてそう思うんですか・・・?」
「だって。結婚するのを知られたくないのは相手に恋愛感情があるからよね。それ以外に理由なんてあるかしら?」
「・・・」
「芽衣ちゃん驚いてるから当たってるみたいね」
私が言うと芽衣ちゃんは隠し通すことをあきらめたらしく少し柔らかい表情になった。
「私はお母さんに説明してそれで終わりだと思ってました。だけど、やっぱりお母さんには全部お見通しなんですね」
「ふふ。だって大人と子供だもの」
「そうですね」
「じゃあもうすべて答えてくれるから?もちろん誰にも言わないから」
「はい、わかりました」
「柚子が好きなのね?」
「はい・・・」
「そう。それは片思いなのかしら?」
私が言うと芽衣ちゃんは少し考えるようにして、それから話した。
「お母さんに隠せるとは思えないので正直に言います。柚子とはもう恋人同士になっていてお付き合いしている状態です」
「そうなのね。でも不思議ね芽衣ちゃんみたいな美人で完璧な人が柚子なんかとお付き合いしてくれるなんて」
「え??逆だと思いますが・・・」
「逆?」
「柚子はとてもモテるんです。柚子が誰かに告白されてるところも見たことあるし、私の周りにも柚子に恋愛感情がある人が何人もいるんです。私も柚子を好きになったからその人達の気持ちはわかります」
「そ、そう?柚子がねえ・・・。じゃ芽衣ちゃんが先に柚子を好きになったのかしら?」
「いえ、柚子が先です」
「え?なんだかよくわからないけどとりあえずまあ二人はお互いが好きなわけよね」
「はい」
「そう。なら結婚するのは言えないわね。わかったわ、柚子には内緒にしておくわね」
「はい、ありがとうございます」
「じゃ最後に言っておくわね。芽衣ちゃんは学院をついで好きでもない相手と結婚して。恋人とも離ればなれになって今はつらいかもしれないけれど。柚子はこのままあきらめたりしないし、絶対に誰か助けてくれるはずなの。だから今はつらいけどいつか幸せな時がくるから。だからそれまで頑張ってね芽衣ちゃん」
「はい・・・」
「あと芽衣ちゃんのことだからもしかしたら柚子にはまだ好きだって言ったりしてないんじゃないかしら?」
「どうしてわかるんですか・・・?」
「だって芽衣ちゃんが相手に好きって言うのちょっと想像できないのよ。芽衣ちゃんでもどんな形でもいいから伝えないとだめよ。一度で大丈夫だから、頑張って伝えてみて」
「はい、わかりました」
「じゃ話はこれで終わりね。今お昼作るから芽衣ちゃん部屋でゆっくりしてね」
「はい」
芽衣ちゃんは軽く頭を下げてそのまま部屋に行った。

部屋に入った途端ため息をついた。よく考えたら私なんかにお母さんを騙すことなどできるわけないのだ。でもお母さんの理解がえられたのはなんだかほっとした。お母さんの言うとおり、確かに一度は気持ちを伝えないと行けない。でも、好きなんて多分言えないから。だから私はもう何度読み返したかわからない例のノートに気持ちをすべて書くことにした。椅子に座り、ペンをとる。そしてこう書いた。

『 ねえ 柚子――――― 』



戻る
inserted by FC2 system