明るい光になんとなく目が覚める。 ふと隣を見ると柚子が気持ちよさそうに寝ていた。 そう、今日は柚子の誕生日。 柚子が何も言わないから実は悩んでいるのだ。 プレゼントをあげたいけど、もしかしたら迷惑だろうか。ただ、忘れてるだけならいいけれど。今日はお母さんは帰ってこれないと昨日言ってたし。ケーキは買ってくるとは言っていたけれど。でも、帰ってこれないということはまあケーキが家にあるのは夜中か明日の朝なはず。 とりあえず、もういい加減昼前なので柚子を起こすことにする。 その肩を揺すると柚子が目をさました。 「うー・・・ん」 「ちょっと、いい加減おきなさい」 「あ、あと5分・・・」 「何言ってるのもうお昼よ」 「げ!マジ!じゃ起きるよー」 「珍しいわねこんな時間まで寝ているなんて」 「あー。昨日の夜ちょっとゲームを・・・」 「どうせ私に言えない内容のものなんでしょ」 「あははは」 「じゃ早くお昼食べましょう」 「あ、詳しく突っ込まないんだね・・・」 リビングへ向かおうとして振り返ると柚子はまだ眠そうにあくびをしていた。 この様子だとたぶん誕生日だということに気が付いていないのだろうか。 私はため息ついてとりあえずお昼を食べることにした。 「あー。やっぱりカレーはおいしいなあ」 おいしそうにバクバクほおばる柚子。 「真夏なのだから少しはカレー以外も食べたいのだけど」 「あ、じゃ冷たいカレー作る?」 「嫌よそんなカレー。・・・ところであなたそのスプーンの持ち方なんとかならないの?」 「は?」 前から気になっていた柚子のスプーンを握りしめる持ち方が気になり言う。 「そういうの握り箸って言うのよ」 「え?これスプーンだよ」 「だからそういう持ち方のこと言ってるのだけど」 「なんかいけない?」 「ええ」 「答えんの早っ」 「私みたいに持ちなさい」 「そんな高度な技を・・・」 「これ普通よ」 そう言われて柚子がスプーンを持ち直す。 「うう。食べづらいよう」 「訓練しなさい」 「なんでカレーを苦労して食べないといけないんだ・・・」 慣れない持ち方で必死にカレーを食べる柚子を見ながらため息をついた。 この分だといつ誕生日の話題を持ち出していいのか。 とりあえずカレーを食べることにするのだった。 どうしたらいいか悩んでいるうちにあっという間に夜になってしまった。 布団に一緒に入る。・・・だめだ1日が終わってしまう。 「柚子」 「ん?」 「あの。手、だしてくれる?」 「?」 不思議そうな顔をしながらも手をだした柚子の手に私はそれを握らせる。 「これは・・・?」 「プレゼントよ」 「え!やったー!新しいリボンだね!」 「あなたこの間欲しがっていたから」 「ん?嬉しいけどなんで急にプレゼント・・・?」 「あなた今日誕生日でしょう?」 「あ!そうだ今日あたし誕生日だ!」 「自分の誕生日忘れるなんてあなたね」 「あはは。いやでも誕生日プレゼントなんて初めてだよ嬉しいな〜」 「あなた誕生日プレゼントもらったことないの・・・?」 「うんないよー」 「お友達からはもらわないのかしら?」 「あー。夏休みだしね。それにあたしの誕生日なんて誰も知らないしねえ。あ、でもママはケーキ買ってくれるよ」 「ケーキはプレゼントじゃないでしょう」 「んー?別にケーキだけでも嬉しいよ」 「お母さんと一緒に食べるわけね」 「ん?いや一緒に食べたことなんてないよ」 「?どうして?」 「いやほら帰り遅いしママ寝ちゃうから朝食べるんだよね。でも疲れてるママ起こせないしさ。ひとりで食べるの大変なんだよねあれ」 「・・・」 「ケーキくさるから早く食べるんだけど朝からケーキはきついんだよね。まあでも残したらママに悪いから食べるけど」 「誕生日はどうすごすの?」 「ん?別に一人だよやることないしね」 「・・・ずっとひとり?」 「ママいないし当たり前じゃん〜」 「・・・」 「でもたしか6歳の誕生日のときだったかな、やっぱりママいなくてね。別にそれはいいんだけどいきなり夜停電したんだよ。あれ怖かったなあ。しょうがないから急いで布団にもぐったりしたけどね」 「そんな・・・」 「?」 「そんな、寂しいことばかり言わないで」 「え??ご、ごめんなんか変なこと言ったかなあたし」 困ったようにおどおどする柚子にため息をついた。 ずっと誕生日をひとりでしか過ごしていなかったなんて。 いたたまれなくなって思わずその手を握った。 「め、芽衣?」 「来年も・・・」 「うん?」 「来年もまたプレゼントするから」 「え、ほんと?ありがとう嬉しいなー。あ、今度芽衣の誕生日だよね!プレゼントするからね!」 「ええ」 「あ、じゃ一日中キスするってのはどう?」 「・・・」 「う、嘘だよそんな怒らないでよう」 「いいからもう寝るわよ」 「え?早いなあ」 「あなた明日たしか朝早くから補習なんでしょ」 「うわ、そうだった」 二人で布団に潜り込む。 すでにうとうとしはじめた柚子に、 「寝るの早いわね」 「あー。なんか夕飯やまほど食べたら眠く・・・」 「いいわよ寝て。おやすみなさい」 「うん、おやすみ」 そう言ってすぐ寝息を立て始めた柚子の頭をそっと撫でる。 ・・・これからは誕生日はひとりじゃないから。 そう心の中で呟いて起こさないようにそっとキスをした。 |