放課後教室に入るとたまたま会長ひとりしかいなかったのであたしは声をかけた。
「会長、ちょっと今いいか?」
「?ええ、いいわよ」
会長の前の席に腰掛ける。
「ユズっちに聞いたんだけど、恋人になる前から同じベッドで寝てたってマジか?」
「ええ」
「ちょっとよくわからないけどユズっちの部屋にあったベッドに会長も一緒に寝るようになった、とかか?」
「そうじゃなくて、お母さんが私達二人用にダブルベッドを新しく買ってきてくれたのよ」
「だ、ダブルベッド?しかも買ってきた?」
「ええ」
「いや、姉妹でダブルベッドでなんか寝ないぞ普通。夫婦でもなかなか・・・」
「別に深い意味はないんじゃないかしら」
「まあそうだろうけど。なんかさすがユズっちのお母さんだなあ」
「柚子はすごい動揺してたけれどね」
「そりゃ好きな人とダブルベッドじゃ動揺するだろ。会長は平気だったのか?」
「あのときはまだ柚子を好きじゃなかったから」
「ふーん。そういえば会長はあとからユズっち好きになったわけだけど、ユズっちを好きになったきっかけって何だ?」
「そうね。・・・私のお父さんのことで柚子が助けてくれたのがきっかけかしら」
「ああ。あれか」
「?知っているの?」
「あのときユズっちとファミレスにいてさ。そしたらユズっちのお母さんから電話かかってきてその会話の内容全部聞いたから」
「だからあの時自転車柚子に貸してくれたのね」
「そうそう」
「あの時はありがとう谷口さん」
「いや、あたしは会長のためじゃなくユズっちのためにやっただけだから礼はいらないよ。まああれでユズっちの優しさに惚れたわけか」
「あれというかその後、・・・いえ何でもないわ」
「ん?何だよまさかあの日ユズっちがなんかしてきたのか?」
「してきたというか自然にというか・・・」
何故か顔が赤い会長にあたしは真相を聞き出すべく詰め寄った。
「何だよおい。すごい気になるから言ってくれ」
「・・・その。キスしたのよ」
「ん?なんでそんな展開になるんだ?」
「あの日の夜に私は開けてなかった父の手紙を読んだの。そしたら柚子が泣くのよ、私が手紙読んでるの見てほっとしたって。思わず私が涙ふいてあげたら・・・」
「あー。その流れでか。ユズっちほんと優しいなあ。ていうか会長までユズっち好きになるってちょっとモテすぎだろユズっちは」
「確かに好かれすぎね柚子は」
「しかも鈍いから自覚ないしな」
「谷口さんの気持ちにも気づいてないものね」
「ん?いやあたしはっきり言ったぞ」
「そうなの?」
「好きだってな。でもわかってるか微妙だけど。あ、そういえばユズっちは会長に結婚してくれとか言ったんだって?」
「ええ」
「ま、まさかできないって知らないってことは・・・」
「それはないわよ、ただの勢いでしょ」
「何でも勢いでやられてもなあ」
なんて話してたらユズっちが教室に入ってきたので同時に口を閉じる。
「あ、二人ともちょうどよかったこれ食べる?」
ニコニコ笑いながらユズっちがクッキーらしきものを差し出してくる。
「ん?どうしたんだこれ」
「さっき下級生の子からもらったんだ〜」
「おいこら。恋人の前で他の女の子からクッキーもらったとか言うなよ、しかも食べろなんて」
「え?芽衣はクッキー嫌いじゃないよ?」
「そうじゃねーよ!他の女の子からもらったもんなんか出すなよ!」
「ん?別にくれただけだよ?」
「友達でもないしかも上級生にクッキーくれるってそれ好きって意味だろ!」
「え?好きなんて言ってな・・・」
「言わなくたってわかるだろ!」
あたしが叫んでると会長が手をあげて、
「いいわ谷口さん、私は気にしてないから」
「そ、そうか?ならいいけどさ」
「ごめんなさいもう帰るわね」
「あ、じゃ3人でかえ・・・」
「アホか!会長と二人で帰れよこのバカ野郎!」
「え?な、何?え??」
「柚子帰るわよ」
会長に引きずられて今日教室を去るユズっちにあたしはため息をついた。
「だめだありゃ」

寝る時間なのだが何故か芽衣の機嫌が悪い。あたし何か変なことしただろうか。
寝ようとしてる芽衣をこちらに振り向かせる。
「何よ」
「い、いやあの。怒ってる・・・?」
あたしがびくびくしながら言うと芽衣はため息をついて、
「怒ってはいないわ。ただ嫌なのよ」
「嫌・・・?」
「あなたは自覚ないだろうけど誰かがあなたを好きなのがたまらなく嫌なの」
「・・・」
「ちょっと。何笑ってるのよ」
「いや、だって。それ嫉妬だよね?」
「恋人に嫉妬して何かおかしいとでも?」
「つまりあたしを独り占めしたいんだね?」
赤い顔してプイっと顔をそむけた芽衣をあたしは抱きしめた。
「芽衣、約束するよ。もう誰かから何かもらったりしないから、ね?」
「・・・わかったわ」
「じゃ約束のキスを」
「理由なくてもいつもするくせに」
「あ、わかってんじゃん」
結局いつもと同じように日付が変わるまでキスをするのだった。




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