※百合姫2018/1月号少しですがネタバレしています、未読の方はご注意ください。



「ん・・・」
あたしが芽衣の口内をかき乱すと決まって芽衣は甘い声を漏らす。
声が出せないくらい唇を塞いでるけど、長いキスだから息継ぎをする時に一瞬だけ唇が離れるからその時に芽衣の可愛い声が聞ける。
旅行に行く前に約束した『一日一度のキス』。
旅行から帰ってきてから毎日かかさず実行している。
一日、一度だけだから。本当に、大切に。心を込めて。
自分で言うのも何だけど、結構キスはうまくなったと思う。
・・・いやそんなこと今はどうでもいい。
芽衣の手をぎゅっと握ると、芽衣も握り返してくる。
それがどうしようもなく可愛くて。理性がどこかへ飛びそうになるのをこらえて、大切な芽衣が傷つかないようにできるだけ優しくキスをする。
こうしてると胸が痛い。それはキスが気持ちいいからだけではなくて。
芽衣が好きだから。本当に言葉では言い尽くせないくらい好きだから。
だから、こんなに胸が痛いんだ。心が、芽衣が好きだと叫んでいる。
長いキスが終わって、唇が離れると、芽衣は決まってあたしの肩に顔をうずめてもたれかかってくる。息を整えるためか、深くため息をつきながら、キスの余韻にひたってるのが可愛くて。
芽衣を抱きしめると、芽衣もそっとあたしの背中に手を回す。
「芽衣。・・・大好きだよ」
もう、幾度となく芽衣に囁き続けているその言葉。
旅行から帰ってきてから、毎日しつこいくらい言っている。
最近芽衣が寂しそうな顔をするようになったから。
だから、寂しくないよと。あたしがいるよと伝えたくて。
なぜ寂しい顔をするのか理由はわからない。今までも色々あった。だからこれからもきっと色々あるのだろう。
芽衣と一緒に乗り越えていきたい。芽衣はもう一人じゃないとわかってほしい。
どんなことがあってもあたしの芽衣への気持ちはかわらない。
好きだと告白したあの時、この気持ちは芽衣を裏切らないと約束したから。
あきれるくらい、そばにいてあげる。
そう、一生添い遂げたい。芽衣があたしを嫌いになって捨てない限りはずっと。
「・・・愛してる」
芽衣の耳元でそう囁く。
あたしの気持ちをどうかわかってほしい。
何も不安がることなんてないんだから。
絶対に、どんな手段を使ってでもあたしが芽衣を幸せにしてあげる。
運命にだって逆らってみせるんだから。
そっと芽衣の髪を撫でる。なんだか少し肌寒い。
もう夏も終わり。あたしが寒いと感じるなら芽衣も寒いのかな。
「芽衣、寒くない?大丈夫?」
あたしは心配になって芽衣に問いかける。
芽衣はあたしの肩に顔をうずめたまま答える。
「あなたが、あたためて」
「うんわかった」
きつく。きつく、抱きしめて。あたしの体温が芽衣に伝わればいい。
暖房がわりでもなんでもいい。芽衣があたしを必要としてくれるなら嬉しいから。してほしいことはどんなことでも言ってほしい。芽衣の望むことはあたしが何でも叶えてあげる。
「芽衣は冷え性だね」
肌に触れる芽衣の体温がなかなか暖かくならないのでそう呟くと、芽衣が顔を上げずに答える。
「女の子はみんなそうよ」
「あたしも女の子なんだけど?」
「さあ。あなたは特殊なんじゃない?」
「あー!ひっどーい!傷ついたー!」
「仕方ないじゃない本当のことなんだから」
「そんなこと言うとまた首にキスマークつけちゃうぞ!」
「首は困るからやめなさい」
「ふーん?じゃ他ならいいんだ?」
あたしは芽衣をベッドに押し倒した。芽衣がとがめるように言う。
「今日の分のキスはもう終わりよ」
「じゃ舐めようかな」
「・・・変態」
「いやあそれほどでも!」
「ほめてないわよ
ゆっくり唇を近づけると芽衣がまた言う。
「キスは終わりって言ったはずよ」
「うん、わかってる」
キスじゃなきゃいいんだ。あたしは芽衣の唇をそっと舐める。
芽衣が抵抗しないので、その唇を執拗に舐め続けてると、芽衣が自ら唇を押し付けてきたのであたしはわざとそれを抑えて唇を離す。
「あれ、芽衣。今日の分のキスはもう終わったよ?」
あたしがからかうように言うと芽衣は顔を真っ赤にしてあたしをキッと睨みつける。そんな顔されたらますますいじわるしたくなるんだけどな。
「キスしたくなっちゃった?」
「ばか」
「ちゃんと言ってくれないとわかんなーい」
「今日の・・・」
「うん?」
「今日の分はもう終わったから・・・」
あーもう。なんて真面目なんだ芽衣は。仕方ない、ここはなんとかしてあげよう。
「じゃ、芽衣こうしよう。1日20分のキスで1回ってことにして。さっき10分キスしたから、あと10分残ってるよ。どう?」
「・・・わかったわ」
「えー?ちゃんと言ってくれないとわかんなーい」
「いじわる」
「あたしいじわるだよ、知らなかった?」
睨みつけてくる芽衣。かわいいけどそろそろいじわるするのも終わりにしてあげよう。
「芽衣、ちゃんと言って?」
そしたら、キスしてあげる。そう囁くと芽衣は声を絞り出すように、小さくかすれた声で言った。
「キス、して」
・・・お願い。
芽衣がそう言うのと同時にあたしは唇を押し付けて。舌を絡め合う激しいキス。芽衣が求めてくれて嬉しい。
結局10分なんて時間を忘れて。もう何度目かわからないキスの合間の息継ぎで芽衣が、
「柚子」
「ん?何?」
「もう、眠いから」
眠気には勝てないらしい。眠いからキスをやめようなんて。芽衣らしいなと思って顔がほころぶ。
「そっか。じゃ、もう寝よっか」
「ええ」
「おやすみ、芽衣」
「おやすみなさい」
すぐに寝息をたてはじめた芽衣に、あたしも寝なくてはと布団をかぶり目を閉じる。
キスの時間20分なんて言わず40分とか言ってもよかったな。
いや、そんなこといいから早く寝よう。
だって、眠って明日になれば、また、キスの時間がチャージされるのだから。



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