女は嫉妬深いだとか好きな人に嫉妬するなんて話は小説によくでてくるから知っているけれど。でもそれは自分には関係のないものだとずっと思ってきた。
でも柚子が好きだと自覚してしまった以上、今のこの気持ちはどう考えても嫉妬でしかない。
柚子とあの子のキスシーンを思い出すと今まで感じたことのない気持ちが湧き上がってくる。どう見ても無理やりキスされてるみたいだったし柚子が簡単に誰とでもそんなことする人間じゃないこともわかっている。あと、どう考えても柚子も私のことを好きでいてくれてることも。
不安な要素など何一つないのに何故私は今嫉妬して苦しいのか。そしてこの苦しさはどうしたらなおるのか。

冷静に会話をしていたけれど。
柚子の口から「妹」という言葉がてできたから。私はこれ以上耐えきれず柚子に近づき後ろから抱きついた。
「め、芽衣?」
戸惑う彼女の首に触れたり手で触れたりすると、柚子が慌てながら言う。
「お皿持ってるのに危ないだろ!」
嫌だと言われなかったことに安堵すると同時に、好きだからと素直に言えない私は言い訳をする。
「姉妹ならこのくらい当然でしょ?」
「へ?」
我ながらずるい言い訳を思いついたなと思っていると、柚子が私に近づいてきてその子供みたいな純粋な目で私をじっと見つめてきた。
何?と言うより先に柚子が尋ねてくる。
「大丈夫?」
「え・・・?」
柚子の言っている意味がわからず聞き返すと柚子が心配そうに私を見て言う。
「何か、あった?」
「・・・」
心底私のことを心配してくれている風な柚子を見て、私は途端に自分のしたことと考えていることがひどく恥ずかしくなった。彼女は純粋に優しくて私のことを心から心配してくれているというのに私は自分の利害しか考えていなかったわけだ。自分の心の汚さが本当に嫌になってくる。
「別に、何もないわよ」
私がなんとか冷静を装ってそう言うと柚子は笑って、
「ならいいんだけどさ。芽衣ってなんかこう考えこんじゃうタイプみたいだから心配だなあ」
人の心が読める能力でもあるのではないかと思ってしまうほどの彼女の鋭さにはいつも感心する。
「あ、えっと。とりあえずこれ洗っちゃうから、ちょっと待っててね」
そう言って再び食器を洗い始めようとする柚子の手を何気なく見る。その手は見るからに荒れていて赤くなってあかぎれだらけだった。
「その手、大丈夫?」
「ん?ああ、これ。水仕事って手があれるんだよねえ」
どう見ても少しの期間でできるかんじの手の荒れ方ではない。つまり昔からこういうことをやっていた、ということだ。
「手袋とかしないの?」
「あー。だめなんだよあれ。手じゃないと油おちたかどうかわかんなくてね」
「じゃせめて水じゃなくて寒いしお湯を・・・」
「いやお湯もなんでかしらないけど余計手があれるんだよ」
「・・・痛くないの?」
「ん?大丈夫だよ〜」
「じゃ、私も手伝ってもいいかしら」
「え?いいよ、もうすぐ終わるしさ」
「私にはできないって言いたいのかしら」
こんな言い方しかできない自分が情けない。
「いや違うよそうじゃなくて、あたしが嫌なんだよ」
「?」
意味がわからず首を傾げた私に柚子は照れくさそうに笑いながら言う。
「芽衣の手があれたらやだもんあたし」
「・・・」
じゃああなたの手はいいの?と言おうと思ったがやめた。そんなこと言ったらきっと柚子が困るだろうから。
でも、とにかくまだ嫉妬心で苦しい。どうしたらいいのかと思って何気なく彼女の顔を見てそれを解消する方法を思いついたから。私はそれをすぐに実行することにした。
そっと手を伸ばしてその頬に添えると柚子が少し驚いたようにこちらを見る。
それにはかまわず唇を押し付けること数秒。いきなりでびっくりしているはずなのに抵抗されないことにほっとする。
「め、芽衣?」
柚子の顔は真っ赤だった。それだけ私のことを想ってくれている証拠のようで嬉しい。
自分からしたけれどでも恥ずかしくなり目をそらすと、
「ふふ。なんか、かわいいね」
「?」
「だって、芽衣ってキスするとき手を繋ぐクセあるみたいだから」
ほら、と無意識につないでいた手を揺らす。
余計恥ずかしくなって俯くと、柚子が嬉しそうに笑って私の顔を覗き込んでくる。
「もしかして、やいてるのかな?」
「・・・っ」
ズバリ気持ちを言い当てられて顔が熱くなる。
「えへへ。嫉妬されるって嬉しいんだなあ」
「・・・うるさい」
「あはは、照れない照れない」
なんて言いながら柚子がその手を私の頬に添えてくる。
「あのさ」
「?」
もう至近距離にある柚子の顔。
「さっきのお返しがしたいんだけど、いいかな?」
その言葉の意味をすぐ理解して。それを受け入れるべく私はそっと目を閉じた。

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