ふと、目が覚めた。何気なく隣を見ると柚子がいない。どういうことだろうかと考えようとしたがなんだか頭がぼーっとしてうまく考えられない。今何時だろうと思ったけれど部屋が明るいのでもう朝なのだということだけはなんとなくわかった。
「あ、芽衣起きたの?」
ごめんちょっとジュース飲んでた、なんて言って柚子が傍によってくる。
「・・・」
なぜか何も言えない。言葉を発するのがひどく億劫に感じられた。なんだか自分の体がおかしいということはなんとなくわかったけれどどうしてなのかということが頭が働かない。
「珍しいね、あたしが起こさないのに起きるなんて」
柚子が顔を覗き込んでくる。
「ん?なんか芽衣顔赤いね、どうしたのかな?」
「・・・あの」
「うん?」
なんて言っていいかわからなかったけれどとりあえず感じたことを口にしてみる。
「なんだか暑くて・・・」
「えー?芽衣寒がりなのにおかしいね今真冬だよ?」
柚子の言う通りだ。これはじゃあ何だろうとぼーっとする頭で考えていると。
「あ、もしかして熱あるのかなあ。顔も赤いし」
どうかな、なんて言って柚子が私の額に手をやる。
「・・・げ!!超熱いじゃん!うわあ熱だ熱!!」
ああなるほど。熱があるなら今の自分の状態に納得がいく。
「だ、大丈夫?風邪ひいちゃったかな?頭痛いとか喉痛いとかない?」
「・・・ええ、痛いとかはないわよ」
「うーん?なんだろうね。最近芽衣忙しかったから疲れちゃったかな?」
そう言う柚子をぼんやりと見つめる。
「あー。目が赤いし焦点があってないよ、ちょっとやばいかもね芽衣大丈夫?」
心配そうに見つめてくる柚子に私はなんとか答える。
「あの。なんだか・・・こう、だるいかんじがして」
「しんどい?」
「そうね、そういうかんじかもしれないわね」
「んー。とりあえず熱はかろっか」
といって体温計をとってくる柚子。
「はい、これではかって」
言われたとおりはかってみる。
「音なったね、かして?」
柚子に体温計を渡す。その体温計を見た柚子は目を丸くして驚く。
「うわ!マジか!」
「何度だったの?」
「さ、39度6分・・・」
「え・・・」
驚くと同時にこの体の暑さとしんどさのわけを理解する。なるほど、私は具合が悪いのだ。
「どうしようかなあ。病院行くのもこれじゃしんどいだろうし」
「いいわ、家で休むから」
「そっか。うん、じゃあゆっくり休んでね芽衣」
「・・・あなたは?」
柚子はにっこり笑って言った。
「もちろん、あたしも休んで芽衣を看病するから安心して」
「・・・ごめんなさい」
「何言ってんの芽衣、姉が妹の看病するの当たり前じゃん。気にしないで、ゆっくり休んで」
そう言って柚子は私の顔を覗き込んで、その手がそっと私の頬に触れる。
看病してくれるという柚子にありがとうと言いたかったのに。
なんだかとても体がつらくて、何気なく目を閉じたら知らずのうちに眠ってしまった。

「・・・?」
目が覚めて、一瞬どうして寝ているのだろうとぼーっとする頭で考える。そうだ、熱があって休んでるんだった。
なんだかとても額に冷たくて気持ちいい感触を感じてなんだろうと手で触れてみると濡れタオルだった。きっと柚子がやってくれたのだろうと思っていると。
「あ、芽衣。やっと起きたね」
ちょっとトイレ行ってた、なんて言いながら柚子が部屋に入ってきて私のそばまでくる。
「今、何時なのかしら?」
「ん?もう昼の2時だよ」
「もうそんな・・・?」
朝学校に行く時間の前に起きたはず。そんなにも寝ていたのかと驚く。
「うーん。芽衣、まだ目がトロンとしてるよ。ちょっと重症だね」
そう言いながら柚子がペットボトルを差し出す。
「?」
「このポカリ飲んで。これだけ熱があったら喉乾いてるでしょ」
言われるまま口をつけて飲むととてもおいしくかんじられて同時に喉の渇きを感じて一気に飲んでしまった。
「やっぱり喉乾いてたんだね。・・・ん。熱はかってあげようか?」
「別に熱ぐらい自分ではかれ、んっ・・・!」
突然押し付けられた唇と激しいキス。柚子の舌が割って入ってきてその感触に思わず柚子の袖をギュッと掴んだ。
しばらくして唇が離れて、
「熱、まだあるみたいだね」
「・・・ばか」
「えへへ」
「うつったって知らないわよ」
「いいよ芽衣の風邪ならうつったほうが嬉しいから」
まったく困った姉である。ため息をついたらぞっと寒気を感じて肩をすくめた。
「ん?大丈夫?」
「寒気がして・・・」
「汗が冷えたかもね、着替えたほうがいいよ」
そう言って私のパジャマを取りに行く柚子。
「あれ?なんでないんだ?」
「最近雨続きで洗濯してないからじゃない?」
「えー?でも着替えないとだめだよー」
「あなたのはないの?」
「あ、そっか。でもあたしのじゃサイズあうかな」
「いいわよ別に」
「そう?じゃとりあえずこれでいいかな」
はい、と柚子の長袖シャツとズボンを渡される。
「・・・柚子」
「ん?」
「着替えるからちょっと、向こうむいてて」
「え?いやあたしが着替えさせてあげるよ」
「嫌よ、何かするんでしょ」
「うっ。脳内が見透かされてる・・・」
「早く向こうむいて」
「はい・・・」
柚子が向こうを向いたので着替えてると。
「あ、あの。まだでしょうか」
「まだよ待って」
「みーたーいー!!」
「自分の欲望を叫ぶのやめなさい」
で、着替え終える。
「いいわよ」
「ほ、ほんとに着替えた?裸見たら我慢できないよう」
「そうねわかってるから大丈夫よ」
「あっ理解してるんだ・・・」
なんて会話をしてたら玄関のベルがなって柚子が慌てて立ち上がる。
「あっそうだ!宅配便来るんだった!ちょっと行ってるね」
「ええ」
柚子が部屋からいなくなり急に静まり返る。
「・・・」
急に、思い出した。両親が離婚して、お父さんも突然いなくなってすぐにこんな風に高熱で寝込んだことがあった。ひとりで看病してくれる人もいなくてとても寂しくてつらかったのを覚えている。急に不安になって布団をぎゅっと掴んだ。こんな気持ちしばらく忘れていた。だめだ、違うこと考えないと。
「あー。おまたせー」
部屋に戻ってきた柚子を見て泣きたくなったけどなんとかこらえる。
「・・・どうしたの芽衣。何だか悲しそうだね。何か嫌なことでも思い出した?」
どうしてわかるのだろうか。時々柚子は人の心を読める能力でもあるのではないかと思う。
「・・・あの。昔今みたいに寝込んだ時のことを思い出して」
「ああ。具合悪いときひとりだとつらいよねあたしも経験あるからわかるなあ」
「・・・その時お母さんはいなかったの?」
「うん。たまたまその日はママがどうしても帰ってこれない日でね。朝早くからママいなくてさ。なのに朝からあたしすごい熱だしちゃってね。ママには心配かけるから言わなかったんだけどね」
「それはいつ頃の話なの?」
「んー。確か小3の時だから9歳かな?」
懐かしいね、なんて言いながら困ったように笑う柚子をぼんやりと見つめた。考えて見たら彼女は3歳でお父さんを亡くしてるからたくさん寂しい思いをしてきているはず。そんなことは普段は全く感じさせないくらい明るくふるまってるけど。・・・私はいたたまれなくなって柚子の手を握った。
「・・・寂しかったでしょう?」
「うんまあね。でも今は芽衣がいるから寂しくないよ」
「私も・・・」
「うん?」
私は柚子を見つめて言った。
「私も、あなたがいるからもう寂しくないわ」
「ふふ、ならよかった。相乗効果ってやつだね!」
「それ単語の使い方間違ってるわよ」
「・・・じゃあもっと間違ったことしようか」
柚子の人差し指が私の唇をなぞる。
「・・・」
「間違ったことするのはだめかな?」
「・・・」
「どうですか、生徒会長さん」
「・・・今だけ。許可してあげるわ」
そうして押し付けられた唇と激しいキスにその背中に手を回して答えた。

「・・・?」
気が付くと柚子に抱きしめられていた。
「あ、芽衣起きた?」
「?」
「今もう夜だよわかる?」
「もうそんな・・・?」
「うん。ずっと寝てたよ。キスの途中に寝ちゃうからまいったなあ」
「ごめんなさい」
「あ、いや別にいいんだけどさ。具合はどう?」
「・・・ええ。楽になったわ」
「よかったー。今日何にも食べてないけどお腹すかない?大丈夫?」
「食欲ないから今日はもういいわ」
「そっか。食欲ないのは心配だけど、体熱くないから熱は下がったみたいだねよかった」
「・・・今何時かしら?」
「うん?さっき時計見たけど10時半だったよ」
「じゃああなたはもう寝るの?」
「ん?何でそんなこと聞くの?」
「・・・ちょっと、私寝すぎて眠れないから」
「ふふ、いいよじゃああたしも起きて付き合あってあげる」
そのあと夜中まで柚子と話をした。何を話したかは、私達二人だけの秘密。




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