私、桃木野姫子は現在愛犬ぷっちと一緒に散歩中。
先日憎き藍原柚子とメイメイの関係を知ってショックをうけてたけれど、私は心に決めましたの。あの女からメイメイを何としてでも奪いとって見せますわ。見てらっしゃい藍原柚子。
今日は休日。そう、今度休日を一緒に過ごそうとメイメイを誘ってみるというのもよいかもしれませんわ。そうと決まればどんな風に誘うか考えなくては。
・・・と考えていたところに向こうから歩いてくる人の気配を感じて顔をあげて息を飲むほどびっくりする。
「・・・会長!」
そう。そこにいたのはメイメイ。ふふ、偶然会うなんてこれはチャンスですわ。
「ああ。姫子。何してるの?ぷっちのお散歩かしら?」
「ええそうですわ。メイメイこそこんな昼間に何故ひとりで歩いてらっしゃいますの?」
「・・・ちょっと自動販売機で飲み物買ってきてほしいって頼まれたのよ」
なんか嫌な予感がしたが聞いてみた。
「あの。誰に頼まれて・・・?」
「?ああ、柚子にだけど」
メイメイに買い物を頼むなんてあの女今度会ったらあの茶髪を真っ黒にして差し上げますわ。
なんて思ってるとメイメイがしゃがんで、ぷっちをなでなでしている。メイメイは昔からぷっちをかわいがってくれていて。そのかわいらしい姿は本当に天使のようですわ。これは藍原柚子も知らないはず。ふふ。
「あの。ぷっちをかわいがってくださるのはありがたいんですけど買い物はしなくていいんですの?」
「ああ、そうね。この辺に自動販売機あったかしら?」
「確かそこの角を曲がるとありますわよ。ご案内しましょうか?」
「ええ、お願い」
メイメイと短いけどデートですわ。今日はなんてラッキーなんでしょう。
「あの、メイメイ?藍原柚子に頼まれたんですのよね?」
「ええ」
「まったく、家にある飲み物飲めばいいのにわがままですわね」
「いえ、私が悪いのよ」
「え?」
「私が、間違えて柚子のコーラ飲んじゃったのよ。それで柚子がコーラ無いって大騒ぎするものだから・・・」
「ああ、そうでしたのね。でもメイメイはコーラなんてお好きでしたっけ?」
「柚子がおいしいから飲んでみろっていうから飲んでみたのよ。結構おいしいわよねあれ」
メイメイにコーラなどという下品な飲み物をすすめるとは困った女ですわ。
「まあ炭酸飲料もおいしいものですわよね」
「そうね。でも炭酸ってちょっと困るのよね」
「困る?」
「なんかゲップが出てしまうじゃない」
「ああ、確かにそうですわね」
「柚子が文句言うからこま・・・、あ」
はっとしたように言葉を途切れさせたメイメイに私は詰め寄った。
「なんですの!?どうして藍原柚子が困るんですの!?」
「ごめんなさい忘れて」
「私とメイメイの仲で隠し事はやめてくださいまし!」
「でも、恥ずかしいから・・・」
恥ずかしい?ということは一体どういうことですの?絶対に聞きださなくては。
「いいからおっしゃってくださいまし!」
「でも・・・」
「でももすともありませんわ!!この桃木野姫子を信じておっしゃってくださいまし!」
「その・・・。キスするときに柚子が文句言うのよ」
あの女絶対いつか殺してやる。・・・と思ったが表情にはもちろん出さない。
「ど、どうしてそのキキキ、キスするときに文句言われるんですの?」
「だから、キスの途中でゲップしてしまうからでしょ」
「ああなるほど。ってちょっと待ってくださいな。キスって普通すぐ唇が離れますでしょ?どうしてゲップして困るんですの?」
「え?普通はそうなの?」
「・・・はい?」
「ごめんなさい普通がちょっとわからないから・・・」
「あ、あの。すぐ唇が離れるのが普通でしてよ?」
「そうなのね。知らなかったわ」
「あの。もしもし?じゃいつもどのようなキスをされてますの?」
「どうのようなって・・・。すぐ唇が離れるのが普通なのだったら、私がいつもされてるのは普通じゃないのかしらね」
「そ、そんなに長く・・・?」
「さあ。長いかどうかはわからないけれど・・・」
「け、けれど・・・?」
「たまに私が気を失っちゃう時があるから長いのかしらね」
「そ、それは長すぎなのではっ」
「そうなのかしらね、普通がどうか知らないから・・・」
なんという。ああもうあの女いつかじゃなくて今すぐ殺してやりますわ。
「あの。ゲップで困るなら少しゲップがおさまるまで待てばいいんじゃありませんの?」
「・・・そうね。だからちょっと待ってっていつも言うのだけど柚子が待てないって大騒ぎするものだから」
メイメイを困らせるとはもう本当に許せませんわ。
「ああ、ほら。ここですわメイメイ」
「わかったわ、ありがとう」
で、自動販売機で飲み物を買おうとしているメイメイの手を見る。ふふ、やっぱり綺麗な手をしてらっしゃいますわ。・・・なんて思って見ていてあることに気が付いた。
「メイメイ?その薬指の指輪はどうしましたの?」
私の言葉にメイメイははっとした表情でこちらを見る。
「これは、その・・・」
なんですの、どうしてメイメイの顔が真っ赤なんですの??
「まさかもう婚約者とそのようなご関係に!?」
「いえ、そうじゃないんだけれど・・・」
「じゃあ、一体誰にもらったんですの!?」
「あの。誰にも言わないでもらえるかしら?」
「ええもちろんですわ!私口が硬いのですから!」
「・・・その。柚子に、もらったのよ」
・・・。あの女、未来永劫許しませんわ。
「そんな。メイメイも嫌でしたら嫌と言えばよろしいですのに」
「?え?別に嫌ではないけど・・・」
「じゃ、じゃあ嬉しいとか・・・?」
「・・・ええ」
あまりにもショックな現実に呆然と立ち尽くしていると。
「あ、もう買ったから帰るわね」
「え?あ、そうですわね。じゃ、じゃあまた学校で」
「ええ」
そして立ち去るメイメイを見送りながらかたわらのぷっちにつぶやいた。
「まったくあの女が好きだなんてメイメイは趣味が悪すぎますわ、ねえぷっち?」
そう言うとぷっちが答えるように吠えたので少し気持ちが晴れたりするのだった。



「・・・ただいま」
私が玄関に入った途端柚子がすごい勢いでドタドタと走ってこちらへ向かってくる。
「おかえりー!ねえ、コーラは?コーラ・・・」
「うるさいわね、ちゃんと買ってきたわよ」
ほら、と差し出すと柚子が満面の笑顔で大喜びする。
「やったー!飲みたかったんだよー!」
「そう。よかったわね」
「ちゃんと2本買ってきた?」
「ええ」
「じゃ一緒に飲もうね!」
「どうして一緒に飲む必要があるのかしら」
「え!いいじゃん一緒に飲もうよ、ねえ芽衣、芽衣〜!」
「わかったわ一緒に飲むから少し静かにしてちょうだい」
「部屋で飲もうね!」
「どうして部屋で飲む必要・・・」
「さ!早く部屋に行こうよほら!」
「ちょ、ちょっと待って今靴脱ぐから」
「早く〜」
「わかったから手をつかんで振り回すのやめてちょうだい」
そのまま柚子に手をひかれて部屋に行ったのだった。

「ねえ芽衣」
「何?」
部屋に入って二人並んで座ってコーラを飲もうとすると柚子がこんなことを言ってくる。
「コーラってさ、10円玉入れるととけてなくなるんだって」
「・・・じゃあこれ体に悪いんじゃないの」
「え?コーラが体にいいわけないじゃんあはは」
「・・・」
「ん?どしたの芽衣、変な顔して」
「・・・いいから早く飲むわよ」
「うん!」
二人同時にコーラを飲んだ。
「あー!うまいー!」
「え?もう飲んだの?」
「うん!ほら芽衣も早く飲んで!」
「・・・どうして急いで飲まないといけな」
「早く〜!」
「わかったわようるさいわね」
コーラを飲み終わった私の顔を柚子が覗き込んでくる。
「ねえおいしい?」
「ええ」
「・・・」
「?柚子?」
柚子の方を振り向くと手首をぐっと掴まれてそのままベッドに押し倒される。
「・・・あなたね、今昼間よ」
「大丈夫、キスだけにするから」
「朝もキスした気がするのだけど」
「いいじゃん別に」
「・・・どうして休日をずっとキスして過ごさないといけないのかしら」
「え?休日だからキスしたいだけするんじゃん」
柚子が私の唇を指でなぞる。
「だめ?」
「・・・仕方ないわね」
「やったー!」
「あ、少し待って」
「え?何で?」
「今コーラ飲んだばかりだからゲップが・・・」
「気にしない気にしない」
「少しくらい待てないのかしら」
「やだ!待てない!」
「ゲップしながらキスしたら苦しいじゃない」
「あたし平気だよー」
「あなたは平気でも私は苦しいんだけど」
「いや苦しんで喘ぐ芽衣もたまらないっつーか」
「・・・あなたちょっと頭おかしいんじゃない?」
「いやあそれほどでも!」
「ほめてないのだけど・・・」
「いいじゃんお願いだよー」
「・・・好きにしなさい」
「やったー!」
それからベッドの上で夢中になってお互いの口内を貪りあった。

「・・・?」
気が付いたら柚子の腕の中だった。
「あ、芽衣気が付いた?」
「私また・・・」
「ん〜。いいよ気にしないで」
「・・・でも」
「うん?」
「キスで気を失うって普通じゃないのかしら」
ふと姫子との会話を思い出してそう言った。
「んー?さあ普通がどうか知らないからなあ」
「・・・そう」
「ねえもう一度キス・・・」
「だめ」
「な、何で!」
「一日に何回も気を失ってたら体もたないでしょ」
「うう。そっかそうだね・・・」
キスを断っただけでこの世の終わりみたいに落ち込むのはやめてほしい。
「仕方ないわねじゃあ」
「?」
私は柚子にそっと唇に触れるだけのキスをした。
「これで、我慢しなさい」
柚子は頷いて、私をきつく抱きしめた。




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