ついに。ついに来ましたわこの時が。
今日は休日だというのにメイメイが風邪をこじらせて家で寝ているというのを偶然聞きつけこの藍原家(?)までやってきましたの。ここはひとつ、藍原柚子も手が出せないくらいメイメイを完璧に看病してみせますわ。
なんて意気込んではみたものの、もしかしたらこちら(?)のご両親などがご在宅かもしれないですしここはやはり丁寧な挨拶を心掛けないと。気合を込めて、とりあえずメイメイの家の玄関のインターホンを押す。
「はーい」
この声。どう考えてもあの茶髪・・・、いえ。いけませんわ。そうときまったわけではないのだしやはりきちんと挨拶しなくては。
「あの。私芽衣さんの友人の桃木野・・・」
「あっ桃木野さんか〜!今開けるね〜!」
・・・。やはりこの声はあのバカ女でしたのね。気合いれて挨拶して損しましたわまったく。
ガチャっとドアが開く。
「いらっしゃい〜」
「・・・ちょっと。なぜあなたがでますの?」
「は?あたしがでなければ誰がでるの?」
・・・。誰かこのバカ女の通訳をしてほしいですわ。
「そうではなくて。その。ご両親とかはいませんの?」
「いないよー」
「そ、そうですのね。でも風邪をひいたメイメイを置いてでかけるなんてなんというか・・・」
「え?だって仕事だもん仕方ないじゃん」
・・・。だから頼むから誰かこのバカ女の通訳を。
「ご両親は休日もお仕事なさってるってことですの?」
「ん?そうだよ、ママ最近休日出勤多くてねえ」
「そう。それは大変ですわね。・・・って。あれ?お父様はどうしてますの?」
「あ?誰の?」
「あなたのに決まってますでしょ!」
「あー、そういう意味か〜」
他にどういう意味が。頭痛くなってきましたわ。
「いないよー」
「あら。お父様までお仕事ですのね。それは大変ですこと」
「え?パパならもともといないけど」
「は?」
「あ、そっか桃木野さん知らないか。あたしのパパは3歳のときからいないよー」
「え・・・?お亡くなりになられてるってことですの・・・?」
「そうだよー」
「そ、そうでしたのね。不謹慎なこと聞いてしまって悪かったですわ」
「ん?不謹慎て何?」
・・・。不謹慎もわからないで16年も生きてるとは。誰かこのバカ女をなんとかしてくださいなまったく。
「寒いでしょ?早くはいんなよ桃木野さん」
「ええ、お邪魔しますわ。・・・ってメイメイの具合はどうなんですの?」
「あー。なんかねなかなか熱がさがらなくてね」
「そうですのね、心配ですわ・・・」
「この間デート行ったときやっぱりちゃんと厚着させればよかったなあ〜」
「そうですわね・・・って、で、デート!?」
「あ?何どしたの大声だして」
「あ、あなたメイメイとデートなんてしてますの・・・?」
「当たり前じゃん恋人同士なんだからさあ〜」
あはは、なんて笑う藍原柚子を見て唇をかみしめた。メイメイと恋人同士でデートまでしてるとは。うらやましくて死にそうですわ。
「今芽衣に聞いてくるね〜」
「え?寝ているのでしたら無理には・・・」
「そんなことないよ、あのね、桃木野さん来るっていったら嬉しそうにしてたんだよ」
まあ。メイメイがそんな風に思ってくれてるだなんて。感激で倒れそうですわ私。
「部屋こっちだよー」
と、ついていくと。部屋にたどりついて、
「芽衣〜!」
と、藍原柚子がドアをいきなり足で蹴って開けたので、
「ちょ、ちょっとあなたノックぐらいしませんの?しかも足でけっとばして開けるだなんて・・・」
「え?なんかおかしい?」
「おかしいどころの騒ぎではないですわよ。少しはこう礼儀とかを・・・ってちょっと聞いてますの?」
なんと下品なことか。これだから庶民は嫌なんですわ。
「芽衣、桃木野さん来たよー」
部屋に入るとベッドに寝ていたらしいメイメイが体を起こしてこちらを見てくれた。
「メイメイ?あの、大丈夫なんですの?」
「ええ。姫子、来てくれてありがとう」
「いえいえそんな・・・ってすごい顔が赤いですわよ、熱ははかりましたの?」
「あ、そっか。そろそろまたはかろっかな」
じゃあ、なんて言って藍原柚子がベッドのそばまでいく。
あら。熱をはかるのになぜメイメイに近づく必要が、と思ったその瞬間だった。
「ちょ、ちょっと、あなた一体何してますの!?」
「は?だから熱はかってるんだよ」
「なんでメイメイのおでこの手をあててますの!?」
「え?だから熱を・・・」
「体温計はどうしましたの!?」
「ああ、なんか体温計おかしくてね」
「だ、だからってそんな、メイメイに、ふ、触れ・・・」
「えー?これでも桃木野さんに遠慮していつものやり方にしてないんだけどなあ」
「い、いつものやり方っていったいなんですの?」
「うーん?それは言うと芽衣が怒るからねえ」
なんですの、どうしてメイメイが恥ずかしそうに俯いてますの!?。
「え、じゃあやっちゃおうかなー」
と藍原柚子がメイメイに近づくと、メイメイが、
「・・・やめなさい。やったら殺すわよ」
「あはは!芽衣は照れ屋だね〜」
「ちょ、ちょっとあの、本当に一体いつもどうやって熱はかってますの!?」
「聞いたらショックだと思うけどなあ」
「いいから正直に言ってくださいな!」
「あの、姫子、これ以上は・・・」
「メイメイは私に隠し事なさるんですの!?」
「でも・・・」
「でももすともありませんわ!この桃木野姫子を信じておっしゃってくださいまし!」
「わかったわかった、あたしが言うからさあ」
ヘラヘラ笑いながら藍原柚子が言う。
「えっとね、キスして体温はかるんだよ」
・・・。この女、いつか絶対太平洋の奥底に沈めてやりますわ。
「体温計はどうしましたの?」
「え?だから壊れてるんだってば」
「ですから新しく買えばいいのでは!」
「そこはほら、わざと買わないでキスしまくるスタイルで」
「そ、そんなに毎日キスを・・・」
「いや毎日どころかできるときはできるだけして」
「・・・もういいですわ」
「あ、キスの話題ついでにいいこと教えてあげるよ!芽衣は冷え性だから長時間キスしないとなかなか唇が温かくならな・・・」
「そんな情報いりませんわ!」
なんて言い合ってるとメイメイが咳き込む。
「め、メイメイ?大丈夫ですの?」
「うわ、芽衣大丈夫?」
メイメイが、ええ、と小さく頷いてそれから、
「・・・ごめんなさい、横になってもいいかしら」
「もちろんですわ、すぐ横なってゆっくり休んでくださいなメイメイ」
「でも姫子がせっかく来てくれたのに・・・」
まあ。なんといじらしいことを・・・。と感激していたら。
「あっそうだ!もうひとついいこと教えてあげるよ!あのね芽衣は冷え性だからあたしがいつも抱きしめて温めてあげ・・・」
「そんな情報いりませんわ!」
「あとね、寝るときは芽衣って手を繋がないと寝れないんだよかわいいでしょ?それでねー」
「だからそんな情報いらないといってますでしょ!?」
「あの。ごめんなさい寝るから静かにしてほしいのだけど・・・」
「あ、あら。すみませんメイメイゆっくり寝てくださいな」
「あーあ、桃木野さんが騒ぐから〜」
「あなたもうるさかったではないですの!?」
なんて言い合ってるとメイメイの寝息が聞こえてくる。
「あ、あら。メイメイ寝てしまいましたわね・・・」
「じゃ桃木野さんどうする?」
「どうって。もう帰りますわ、メイメイのことよろしく頼みますわよ」
「あ、じゃ最後にいいこと教えてあげるよ!芽衣はねあたしが寝がえりうって反対方向向くとやだって駄々こねてあたしをひっぱって自分の方向にむけるんだよくそかわいいでしょ?それでね、あたしをにらみつけて「朝起きるまでちゃんとこのままでいないと別れる」とか言っ・・・」
「だからそんな情報いりませんわ!」
とりあえず嫉妬心をこらえながら、メイメイの家をあとにしたのだった。

「ん・・・」
「あ、芽衣起きた?」
「・・・?姫子は・・・?」
「とっく帰ったよ〜。今もう晩御飯の時間だもん」
「もうそんな・・・?」
「具合どう?芽衣?」
「ええ、よくなったわ」
「よかったー。おかゆ作っておいたからさ、もう少ししたら食べようね」
「お母さんはどうしたの?」
「ああ、なんかね、もう少ししたら帰るって電話あったよさっき」
「・・・そう。ところであなた姫子の前でキスしようとしたでしょう?」
「え?いけない?」
「いけないに決まってるでしょあなたもうちょっと人の目とか気にしたら?」
「じゃ、今キスしていい?」
「・・・あなたね」
「いいじゃん今日ずっと我慢してたんだからさ、芽衣〜!!」
「うるさいわね、じゃ早くしなさい」
「やったー!」
結局お母さんが帰ってくるまでキスをした。




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