今日は七夕。1年1度のイベントで、あたしは毎年ひとりきりで願い事書いて飾ってたけど今年は芽衣がいるからすごく楽しみにしていたのだ。夕飯も食べたし、あとは寝る前に二人で短冊を飾って・・・、なんて考えていたら芽衣が部屋に入ってきた。
「・・・??あなた一体なにしてるかしら?」
「何って。芽衣、今日何の日か知ってる?」
「・・・。何か、あったかしら」
「あーもう!七夕だよ!!」
「ああ、そういえばそうね」
「いやこう・・・もっと反応をなんていうか・・・」
「さあ。私はあなたみたいにいちいちイベント事で大騒ぎとかしないもの」
「そ、そんな。楽しくない?ね?」
「いいえ」
「うう。そんなんじゃ生きてて楽しくないよう」
「七夕って確か願い事を短冊に書いて飾るのよね」
「そうそう!!そうなんだよ!」
「悪いけれど私はそういう不確かなものは信じないタイプだから」
「え?だ、だって願い事かなうかもしれないんだよ??」
「じゃあ何か今まで七夕に願い事して実現したことはあるのかしら」
「うぐ。そんな、けして突っ込んではいけない禁断の質問を・・・」
「まあいいわ。要するに私と短冊飾りたいんでしょ」
「うん!やったー嬉しいなあ誰かとやってみたかったんだよー」
「え?あなたお母さんとかと一緒にしたことはないの?」
「えーあるわけないじゃんママそんな暇ないもん」
「じゃあ。小さい頃からずっとひとりで短冊かざってたの?」
「うんそうだよ」
「・・・そう」
何故か芽衣少し眉をひそめて俯く。あれ、何だろう。あたしなんか変なことを言ったかな。
「いいわ、じゃあ私も一緒にやるから」
「ほんと!?よし、じゃあ一緒に願い事書こうね!」
「私はしたことがないからよくわからないのだけど、願い事だから、つまりこうなってほしいということを短冊に書けばいいのよね?」
「うんうん、その通り」
「・・・」
「ん?何で黙るの?」
「だから何書くか考えてるのよ」
「え?あたしなんかもう決まってるけど」
「前から決めてたのかしら?」
「うん!」
「・・・少し考える時間くれるかしら」
「あはは、もちろんだよ、だって芽衣は今日が七夕だってこともわかってなかったんだから。ゆっくり考えて」
「ええ」
そういってあたしが渡した短冊をテーブルに置きペンを片手に考え込む芽衣。
何気なくじっと見ていると。
「・・・ちょっと、柚子」
「ん?」
「見ないでくれるかしら」
「え。ま、まさか見られたら困る願い事を・・・」
「いけないかしら」
「いや、別にいけなくはないけど・・・」
「じゃ書くから見ないで」
「う、うん」
あたしが芽衣からそっぽを向いていると芽衣がペンで文字を書く音がする。
「・・・えっと。まだかな?」
「いいわ」
振り向くと芽衣が短冊を裏返して伏せていた。
「あの。一体何を書いて・・・」
「・・・」
「わ、わかったよう見ないからそんなに怖い顔しないでよう」
「じゃとりあえずあなたが先に飾って」
「うんわかった」
あたしは短冊を飾り終えてベッドに腰かける。
そして芽衣が今度は短冊を飾り終えて、何でか知らないけどあたしと腕が触れ合うくらいくっついて隣に座ってきた。
「あ、あの。なんでそんなくっつくのかな・・・?」
「だめ?」
うう。何だその可愛い言い方は。絶対そのうち死ぬんだあたしは。思い切り襲いたくなったがもう寝る時間だし、そもそも七夕はそういう日じゃないし、我慢我慢。
「あのさ!寝る前にお願いがあるんだけど!」
「何?」
「七夕は一年に一度だけ織姫と彦星が会えるって言う話は知ってる?」
「ええ。聞いたことはあるけれど」
「だからさ!その二人になりきって・・・」
「いやよ」
「返事早っ!」
「あなたの妄想になんて付き合ったられないわ。もう眠いから寝るわね」
「そ、そんな。一度やってみたかったのに。一年振りのキスだねなんつって!」
「いちいち妄想するのやめなさい、それに・・・」
「ん?それに・・・・?」
「キスならしょっちゅうしてるじゃない」
「・・・」
「?柚子?」
「そんなこと言われたら我慢できないじゃんっ」
「?」
不思議そうな顔をする芽衣を押し倒して唇を押し付ける。
「んっ・・・」
芽衣は抵抗するのをあきらめたのかどうかわからないけれど、あたしの首に手を回してきた。
お互い何度も唇を合わせて舌を絡ませ合ううちに頭が真っ白になって何も考えられなくなる。
何度目かわからないキスの合間の息継ぎで芽衣があたしを押しのける。
「芽衣?」
「ごめんなさい、眠いから・・・」
眠いからキスやめようだなんて芽衣らしくてあたしは思わず微笑んだ。
「ふふ、わかったじゃ寝ようか」
二人布団に一緒に入る。しばらくすると芽衣の寝息が聞こえてきた。
相変わらず寝つきいいなあなんて思いながらふと考える。
芽衣は一体どんな願い事を書いたのだろうか。見せたくないなんてどんな内容なんだろう。あれかな??パパと仲良くできるようにとかかな??それならまあ恥ずかしいかもしれないなあ。
なんて考えながら少し罪悪感はあるものの、芽衣を起こさないようにそっとベッドを抜け出して芽衣の飾った短冊をそっと見て、あたしは思わず目を見開く。その内容に思わず少し笑ってしまった。
だって、書いてあることがあたしと全く同じだったから。
本当に、素直じゃなくて照れ屋すぎる困った妹だ。そしてそっと短冊をまた裏返しに戻して、あたしはそっとベッドへもぐりこんだ。気持ちよさそうに寝ている芽衣にそっと話しかける。
「・・・きっと叶うから安心してね、芽衣」
もう夢の中であろう芽衣の額にそっとキスをしてからあたしも眠りにつく。

――――その芽衣の短冊にはこう書いてあった。

  『いつまでも好きな人と一緒にいられますように』


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