柚子からのプロポーズはこれで3回目。

1度目は私を好きな気持ちは裏切らないと。
2度目はお揃いの指輪を薬指にはめてくれた。

そして、今ので3度目。きっとこれが最後なのだろうと思う。きちんと返事をしたいのにやはり私は結局何も言えなくて。なかなか涙がとまらない私をみかねたのか柚子が私のポケットからハンカチを取り出し拭ってくれる。自分はハンカチをもってなどいないところがまた柚子らしくてそんなことが久しぶりに会ったからかやけに懐かしい。

なんとか落ち着いた私見て柚子が、私の手をとり指輪をはめてくれる。これで2回目なのにやはりとても嬉しい。ふと思ったが柚子は指輪すでにしているけれどそれでは私から柚子に指輪をはめてあげることができないのだが柚子のことだからそこまでは頭まわらないのだろう。

「あ、そうだ。とりあえず店長とおじいちゃんに事情はなさないと集まり始まっちゃうかも!」
「ええ、そうね」
手をつなぎながらとりあえずは宇田川さんの元へ向かうことにした。

宇田川さんへの説明はすぐに終わってしまった。宇田川さんいわくすべてわかってるからとのこと。やはり大人は見ただけですべて理解できてしまうものなのか。じゃあまあ次はお爺様に説明にいかないと、と思ったところで宇田川さんが柚子に言う。
「藍原さん、帰りはどうするんだい?まつりちゃんもいるんだしここは駅から遠いしもう電車はなくなる時間だし二人で夜道歩くなんて危ないよ?」
「そ、そうだ、帰りどうしよ・・・」
「え?帰り方あなた考えてなかったの?」
「あはは頭になかったなあ」
なんとも後先を考えない柚子には困ったものである。私がため息をつき呆れていると、
「じゃとりあえずまつりちゃんと帰ったほうがいいね。帰りの車だしてあげたいんだけど今日は色んな人が集まるから車あいてないんだよ、だからタクシーで帰りなさい」
はい、と宇田川さんは名刺を渡す。
「これをタクシーの人に見せればのせてくれるから」
「え、でもおじいちゃんに説明が・・・」
「別に説明は芽衣さんと僕でできるから大丈夫だよ、だから早く帰りなさい、もう10時半だよ」
「じゃそうしますねー。あ、でも芽衣は」
「ああ。おじいさんにはとりあえず婚約をなしにだけをこの後言ってすぐ芽衣さんもそちらに帰すから」
「わかりました!じゃあとで家でね芽衣!」
「え。あの、ちょっ・・・」
笑いながら手を振り柚子が去っていってしまった。
「ほら、芽衣さん早くおじいさんに説明しにいかないと集まりの人たちにおじいさんが婚約のこと伝えてしまうと面倒だから」
「あ、はい・・・」
なんか知らないが目まぐるしい展開についていくべく頭を切り替える。
そしてお爺様のいる部屋につき宇田川さんとともに部屋に入った。
「お爺様いきなりですみませんが取り急ぎお伝えしたいことが」
「何だ、どうした?」
「あの。今日は婚約のお話をすすめて決めてしまうことで集まっていただいたんですが、まだ皆さんには・・・」
「ああ、まだこれから話しあう前だが?」
「はい。あの、すみませんが婚約すぐしたい話はなしにしていただこうと」
「何?どうした、何かトラブルでもあったか?」
「あ、いえ、そうではなくその」
「婚約はやめたいとかか?」
「え?は、はいそうです」
「なんだそうかわかった。じゃあ今回は普通に仕事の話にでも切り替えておこう」
「あの。驚かないし怒らないのですね・・・?」
私が戸惑うようにいうとお爺様はため息をつく。
「二人していきなり話があるなんて婚約なしにきまってるだろう、今日は婚約の話をきめるために集まっているわけだ。で、婚約したくないなんて好きな人間でもできたのかもしくはトラブルがあるかどちらかだろう?でもトラブルではないとさっきお前は言ったのだから、じゃあ前者じゃないのか?」
あまりのお見通しぶりに言葉がでず戸惑う私に宇田川さんが見かねて助け舟をだしてくれた。
「すみません、僕から説明します」
「すまないな宇田川君。まったく説明もできんとは・・・」
「まあまあまだ芽衣さんは高校生ですから。お時間がないですから簡単に言います。今おじいさんが言われたとおり芽衣さんは好きな人がいてしかもその人と恋人同士なんです。で、何で知ったかわかりませんがその芽衣さんのお相手がさっききて芽衣さんを連れ戻しに、つまり婚約をとめにきました」
「ああ、なるほどな。さっき何か騒がしかったのはそれか」 
「はい」
「だったら恋人がいるといえばいいだろう、それを一言も言わずしかも早く婚約の話をすすめたいなんて言うのだからわかるわけがない、私はただお前が学院をつぐのなら助けになる将来の伴侶が必要かと相手を紹介しただけだ。それも今すぐではないし最初の宇田川君との会食もただの顔合わせだと言っただろう。いやまあもういい。ひとつ疑問があるから答えなさい。そのお前の恋人はここに来たのに何故私に顔をださない?お前の恋人ならうちを継ぐ男になるわけだろう?まさか何か変な事情のある男とか言うんじゃないだろうな?」
「あ、えっと。男性じゃないんです」
「ん?何だどういう意味だ?」
また説明に困る私をやはり宇田川さんがかわりに言ってくれた。
「おじいさん、大変驚くかもしれませんが、その恋人は女の子なんですよ。だから結婚はできないわけです。しかももうこの時間ですから危ないしその子は家に帰らせました」
「なるほどな。だからまあ誰にも言えなかったわけか」
「驚かれないんですね」
「私は海外にもよくいくことがあるからそのあたりの事情はよく知っている。だから別に驚きはしない。しかし相手は誰だ?お前の同級生とかか?」
「今度こそ驚くと思いますが芽衣さんのお相手はあの柚子さんです」
「何?義理姉妹でそういう関係か。まあ義理なら他人だしありえなくはないか・・・」
「ですからとりあえず婚約のお話は打ち消しでお願いします。あとは後日芽衣さんとゆっくりお話してください」
「すまないな宇田川君」
「僕は大丈夫ですお気遣いなく」
「じゃ悪いがそろそろ集まりに顔ださなけれはいけないから失礼する。芽衣、また時間を作るからそしたら詳しく話しなさい」
「あ、あの・・・」
「何だ?」
「怒ってらっしゃらないのですか?」
「何を怒る理由がある。理由はすべて聞いて理解した。まさか私が孫のお前が婚約はなしにしたいということを怒りつけるとでも?」
「違うんですか・・・?」
「どこの世界に孫が好きな人ができたから前からの婚約の提案を取り消してくれというのを怒る人間がいるのだ、私はそんな人間ではないぞ?しかも婚約はまだしてないのだし他の人間にそういう話もしていないから私は何も困ることはない。とりあえず時間がないから話は後日にしてくれ」
そう言いお爺様は去っていってしまった。
あまりにあっけなくすんでしまいしばし呆然としていると。
「芽衣さん、とりあえず婚約はなしになったわけだし、後日おじいさんとゆっくりお話するといいよ。タクシーで早く藍原さんのところに帰りなさい」
ふと近くにある時計を見るともう11時。なんかよくわからないけど帰ることにする。
「あの。ありがとうございました」
「いやいや、気をつけて。藍原さんによろしく」
半ば信じられない気持ちのまま帰宅した。

タクシーを降り柚子の。いや私の家につき懐かしい思いでいっぱいになりながら家の中に入ると薄暗い。考えてみたらもう夜遅いから柚子は部屋にいるのだろうと部屋に入ると。
「あ、芽衣おかえり〜」
何故かベッドで横になり手招きする柚子。まあ寝ようということなのだろうが。
「少し向こう向いてて」
「え?何で?」
「だから私パジャマに着替えるのよ」
「ひさしぶりだからじっくり見た」
「早く向こうむいて」
「うう。わかったよう」
で、着替え終わり柚子の隣に潜りこむと。
「芽衣、おじいちゃんは何て?」
私はお爺様がすべてすぐに理解してくれたことを話した。
「あーそっかおじいちゃんも怒らないのか、何だ早く言えばよかったなあ」
「婚約をなしにと?」
「違う違う、おじいちゃんは婚約なしにして怒るなんてしないとは思ってたんだよ、おじいちゃんは家のために無理に孫に、芽衣に結婚させるような人じゃないのはわかるからね。だけどあたしたちの関係をわかってくれるかが心配だったんだよ。あたしも芽衣も隠さなきゃしか頭になかったからそれは失敗したよね。結局ママもハパもはるみんたちもわかってくれたし、早く話せばよかったんだよね、ほんと半年無駄にしたよ、ごめんね芽衣」
「あなたが謝ることは何も・・・」
「いやだってあたしさ、芽衣がでていってからずっとひとりでなんとかしなきゃって考えてるだけだったから。考えたらあたしひとりじゃ何もできるわけないんだよねしかも周りには誰も言ってないわけだし。だから早くみんなに言わなかったあたしがいけないんだよ。みんなに話したらすぐ解決したもんなあ」
「私だってひとりで決めて勝手にあなたと離れたから・・・」
「それはあたしが鈍いせいだよ、芽衣は悪くない。はるみんに言われたんだよね芽衣が家を継ぐなら婚約者の問題があることくらいわからなかったのかって。はるみん言ってた、あたしの話聞いて頭抱えながらそんなことになってるならもっと早く首突っ込んだのにってね。まあでも要するにあたしも芽衣もひとりで抱えたからいけなかったよね」
「お爺様も宇田川さんもすべてお見通しで、やっぱりすごいと思ったわ」
「そりゃそうだよ、向こうからみたらあたし達なんて子供でひよっこだもん。ママとハパもよくわかってくれたしやっぱ大人は違うよね。あ、そういえばママとあたしのハパはお互いあたしたちぐらいの年齢の時に結婚しようと決めたんだって」
「そう。じゃああなたのお父さん本当に若いときになくなられたのね」
「うーん?たぶんそうかなあ」
「・・・あなたもしかしてお父さんの年齢知らないの?」
「知らないよー」
「だって見た目でわかるじゃない」
「ん?だって顔覚えてないもん」
「写真見れば・・・」
「それがパパの写真ないんだよねえ」
「・・・」
当たり前のことのようにそんなことを言う柚子に何故か胸が痛くなる。
「ん?どうかした?」
間があいたからか柚子が不思議そうにこちらを見て言う。
「その。あなたのお父さんにまた会いに行こうと思って」
「うん!今年もパパのお墓に一緒に会いに行こうね!」
「報告しないといけないし」
「?」
私の言う意味がわからないようでまた不思議そうな顔をする柚子に思わずため息をついた。結婚しようと言ったのはそちらなのに、この鈍さは一体。まあ結婚報告は柚子がしてくれるからいいけれど。
「もう眠いから寝るわね」
「あ、じゃあその前にキスし」
「だめ」
「な、なんで!!」
「あなたのキス長いんだもの」
「そ、そんな。半年もしてないのに・・・」
「おやすみなさい」
無視して寝ようとしたが柚子がブツブツ文句を言っているので仕方なく黙らせるためにこう囁く。
「明日朝起きてからならいいから」
言った途端に柚子が嬉しそうに笑って私を抱きしめてくれた。




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