「ね〜芽衣、夕飯何が食べたい?」
「別に何でもいいわよ」
「んー。いつもそう言うんだからさ?。何にしようかな〜」
今日はママの帰りが遅いので、こうして芽衣と夕飯を買いにスーパーに来ている。
手を繋いで買い物するのはとても嬉しいし楽しい。
さて、今日は何にするかな。そう思いながら歩いていると、ふと卵の安売りのポスターが目に入った。卵が安いなら卵料理でもいいかな。そうだ、じゃあオムライスなんてどうだろう。簡単だしおいしいし。
「芽衣、オムライスでもいい?」
「ええ。・・・あの」
「ん?何?」
芽衣が何か言いずらそうもじもじしている。
何だろう。オムライス嫌なのかな?なんて思っていると。
「オムライスって難しいのかしら?」
「いや、簡単だよ?」
「じゃあ・・・」
「うん?」
「一緒に作ったらだめ?」
・・・げ。何そのかわいいお願いの仕方。
そんなこともちろんOKに決まってる。
「いいよ、じゃあ一緒に作ろうよ」
「でも・・・」
「ん?」
「私、何もできないから・・・」
「大丈夫だよ、あたしが教えてあげるよ」
「いいの?」
「もちろんだよ」
芽衣と一緒に料理か、楽しみだなあ。
じゃあ早く買い物すませよう。
そう思ってレジを済ませ、買ったものを買い物袋に入れて。さて帰るか。
店をでるともう外は真っ暗だった。早く帰らないとな、なんて思いながら歩く。
「・・・柚子」
「うん?」
「買ったもの少ないけどいいの?」
「あ、うん。オムライスだからそんなに材料要らないからね」
「オムライスって」
「うん」
「材料は何がいるのかしら?」
「んー。卵とケチャップとササミと玉ねぎかな」
「・・・」
なんだ。なんの沈黙だ。これは突っ込んでいいのかどうなのか。なんか知らないけど黙っておこう。何がわからないの?なんてそんなこと口が裂けても言ってはいけないのだ。
「ふ」
「ふ?」
「フライパンで、作るのかしら」
他に何で作るんだ。鍋でゆでるのか。グリルで、焼くのか。いや、だめだめ。そんなこと言ったらだめだ。
「うんそうだよ」
「・・・」
なんだ。だからなんの沈黙なんだ。できるかどうか不安なのだろうか。じゃ、ここはひとつ安心させないと。
「大丈夫だよ芽衣。あたしが一緒にやるんだからさ」
「ええ」
なんて会話をしてるうちに家についた。
ついたから、繋いでた手を離そうとしたんだけど。
「あの、芽衣?」
「何?」
「いやあの。手、離してくれないかな?」
あたしがそう言うと、芽衣は、はっとした顔をして、手を離す。
「ごめんなさい」
「い、いやこっちこそごめん」
なぜか謝るあたし。ていうか超可愛いんだけど。抱きつこうかと思ったがやめた。これから料理しなきゃいけないし、玄関先で襲ってる場合じゃない。とりあえず買ったもの冷蔵庫に入れてこなくては。
「芽衣、先に手洗って待ってて」
「わかったわ」
一緒に料理するなんて楽しみだな。なんて気軽に考えてたあたしはこのあとある意味地獄が待っているなんて知るよしもなかった。

と、いうわけで。料理開始である。
「じゃ、作ろっか」
「ええ」
一緒にやるんだよね。さて、どうしよう。芽衣は何もわからないって言ってたから。とりあえずあれだ。1番簡単なことをやってもらおうかな。
「芽衣、卵ひとつとって」
「卵を入れるのかしら」
「うんそうだね」
「わかったわ」
よし、あたしは玉ねぎのみじん切りでもするか。と思ってふと芽衣を見ると、なんかキョロキョロしてる。
「芽衣?どうかした?」
「・・・どのお皿にいれるのかと思って」
お皿にいれたらこぼれちゃう、という言葉を飲み込んで、
「あー。えっと。これの中に入れて」
と、芽衣の前にお椀を差し出す。
「あの・・・」
「うん?」
何だ。何がわからないんだ?
「割るって」
「うん」
「どうしたら・・・」
・・・。・・・。
うーむ。そういうレベルか、こりゃ大変だ。なんていうかきょとんした顔で卵片手に途方にくれてるのが可愛すぎて悶え死にそうなんだけど誰か助けてくれ。
「手で、割るかな」
「手?」
「うん」
「・・・」
「あー。えっと。ちょっと叩いてひびいれてパカって開くの」
「わかったわ」
「あ、ひびいれるだけだから軽くね」
言われた通りに実行する芽衣。
どうやら無事できたらしい。よかったよかった。実によかった。
「じゃ、それを・・・えーっと。割れてるところから手でパカっと開くのね」
「・・・こうかしら」
「そうそう。わー。できたできたー」
なんか幼稚園の先生ってこんな気分なのかな。
それも、年少の子相手ってかんじかもしれない。
「・・・じゃ、次は何したらいいのかしら」
「あ。んーっと」
・・・待て。今やったこと以上のレベルのことはできないはず。じゃ、あとは・・・。
「ご飯、よそってくれる?」
うんこれならきっとできる。…たぶん。
「あたためるかしら?」
「え?いや、そのままで大丈夫だよ」
「だって冷たいじゃない」
「あー。炒めるから大丈夫」
「そうなの?」
「うん」
「どうして?」
どうしてって。冷たいままじゃ冷製オムライスじゃないか。そんなの食べたくないよー。
「んー。オムライスの中身って赤いのわかる?」
「ええ」
「あれはね、ケチャップいれて炒めてるんだよ」
「それで、ああいう味になるのね」
「うんそういうこと」
「この・・・」
「うん」
「この肉と玉ねぎはいつ使うのかしら?」
もう、お姉ちゃん何でも答えちゃうぞー。
「ご飯と一緒に炒めるんだよ」
ご飯に入れないで何に入れるんだ。別盛か。あれか、ラーメンのネギ別添えみたいな。ご自由におかけくださいみたいな。・・・いやだめだ、そんなこと思っちゃいけない。
「この肉って」
「うん?」
「ササミ、だったわよね」
「そうだね」
「これは何の肉なのかしら?」
「鶏肉だよー」
なんていうか誰か助けて。
「んっと。玉ねぎと肉はもう切ったから」
「じゃご飯と炒めるのかしら」
「うんそうそう」
なんか途方に暮れた表情の芽衣にこれ以上は無理だなとあたしは判断した。
「芽衣、あとはすごく難しいからあたしがやっとくよ」
「そんなに難しいの?」
「うん」
芽衣限定でね。と思ったことは絶対に内緒である。
「ささ、あたしは仕上げやるから芽衣は座って待ってて」
「わかったわ」
うう。やっと終わった。なんかすごく疲れたけどまあとりあえず作り終えようとフライパンを手にとった。


「芽衣できたよー」
と、出来上がったオムライスをリビングに運ぶと。
芽衣は椅子に座ったまま気持ちよさそうに眠っていた。
「うーんよく寝るなあ」
起こすのはかわいそうだけど食べなきゃいけないので優しく起こす。
「芽衣。芽衣、起きて〜。ご飯だよ〜」
うーんだめだ起きない。よーしこうなったら。あたしは芽衣に近づいてその耳をペロっと舐めた。
「んぅっ・・・!」
ビクリと体を動かして目を覚ます芽衣。
「あ、起きたね」
「・・・普通に起こせないのかしら」
「だって起きないんだもーん。ほら、早く食べよ?」
そして二人でとりあえず食べることにする。
「柚子」
「うん?」
芽衣から話しかけるなんて珍しいなあと思いながらあたしは頷く。
「・・・ありがとう」
「いやいや。あたしも一緒に作れて楽しかったよ」
芽衣は卵割るしかしてないけどね、という言葉を飲み込む。
「お母さん遅いわね。昔からこうなの?」
「うんそうだよー」
「じゃあ、お母さんが遅いときは寂しかったでしょう?」
「んー。3歳のときからだから慣れてるし平気だよ。ひたすら料理してたしね」
「それで、料理が得意なのね」
「そうだねえ」
「お父さん3歳の時に亡くなられたのよね」
「うんそうそう」
「お父さんのこと覚えてる?」
「うーん。あ、金髪だったよ!」
「それは知ってるけど。他には?」
「え?うーん?あ、ママより大きかったよ!」
「・・・」
なんだ?あたしはなんか変なことを言っただろうか。もしかしてあたしが悲しんでると思ってくれてるのかな?
「でもほら!今は芽衣がいるから、もう寂しくないよ」
「私がいると寂しくないの?」
「うん!」
「・・・じゃあ」
「?」
「・・・できるだけ、そばにいるわ」
「・・・」
何、その可愛い台詞。あたしは我慢できなくなって強引に芽衣を引き寄せてキスをした。
「ん・・・」
舌を絡めると、ケチャップの味がした。
ママはまだ帰ってこなさそうだから遠慮なくと思ってキスを続けてると電話の音がなり急いで離れて、
「あ、あたしが電話でるね」
電話にはママの表示。とりあえず急いで受話器をとる。
「もしもし、ママ?」
『ああ、柚子?ママ8時半頃家に帰るから』
「うん、わかったー」
受話器を置いて、振り向くと、
「お母さん何て言ってたの?」
「8時半に家に着くって」
「そう」
芽衣は時計を見る。
「あと30分ね」
うーんあと30分か。あたしは芽衣に近寄る。
「・・・芽衣」
「何?」
「あのさ。眠かったりする?」
「別に、まだ眠くないけど」
「じゃあ・・・」
「?」
そっと手を伸ばしてその頬に触れる。
「ママが帰るまで、キスしちゃだめ?」
「30分もあるけど」
「そうだよ。だめ?」
「・・・」
じっと見つめるあたしの視線から目を逸らして、芽衣は小さい声で言う。
「・・・いいわ」
芽衣が答えるのと同時に唇を押し付ける。
ママが帰ってくるまで約30分間お互いの口内を貪り続けた。



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