柚子の元を去ってからちょうど今日で三年目の夏になる。9月になったとはいえまだまだ残暑が厳しく今も朝だというのにとても暑い。とりあえず起きて体を起こして、冷房のスイッチをつける。そういえば、柚子と出会って一緒の部屋で暮らすようになったときはまだ今日みたいに暑くて、暑がりな柚子が朝起きるなりすぐに暑くて死ぬなど大騒ぎして冷房を18度に設定したりするものだから私は寒くてでも文句を言う気にもならず仕方なく布団をかぶって我慢したりなんかしたものだ。今だってきっと柚子は朝っぱらから冷房を18度とかにしてつけてるに違いない。それって結構電気代がかかる気がするのだがもしかして柚子のことだからそれを知らないとか。じゃあ今度手紙にでも少しはその辺も気にするようにとでも書いておかなくては。
と、そこで昨日来た柚子からの手紙(夜に来たけど眠くて読めなかった)を読まなくては、と思い出してベッド脇に置いてあったそれを取って、中身を取り出して読んでみた。
「・・・」
毎度のことだが文章の脈略というか内容がめちゃくちゃで思わず少し笑ってしまった。
きっと柚子のことだから適当に書いてその後自分で読み返すこともしてないのだろうけど。でもそれはとても彼女らしくて。ひとしきり笑ってから、ふと思った。柚子が大学に通っているということ、そしてとても楽しく学生生活を送っているのだということは手紙を読んでいてよくわかる。柚子が楽しく暮らしていることはとても嬉しいけれど。ひとつだけとても気になることがある。今柚子は好きな人とか、もしかしたら恋人がもういたりするのだろうか。
女子高であれだけモテるのだから今男性もいる環境なのだったらきっともっとモテるに違いない。
柚子は気軽に適当に誰かとお付き合いなんてするような人間ではないことはわかっているけれど。
でも、もう柚子が誰を好きになろうと、恋人ができようともう私には何も言う権利などないのだ。
私は彼女と一緒にいる道ではなく、自分の道を選んだのだから。
しかも直接何も言わずに逃げたのだ。ノートには気持ちをすべて書いてはおいたけど。
柚子はあれをもうたぶん読んでいるのだとは思うけど、読んでどう思ったろうか。
そして、今もまだ。・・・いやたぶん死ぬまで私が柚子を好きでいることを知ったら何て思うだろう。
困った妹だと言って笑うのだろうか。
・・・なんて思いながら手紙を読み進めていたら次に目に入ってきた内容に思わず目が釘付けになる。
そこにはこう書いてあった。

【 そうだ、聞いてよ。あのさあ。芽衣とのお揃いのペアリングなん だけどね。寝るときも首にかけて寝てるんだけどさ、今って暑い しあたし汗かきだからなんか朝起きたら首がかゆくて困ってるんだ よね。冷房を一番低い温度にして寝ても汗かいちゃうんだよねあた し。なんかいい方法ないかなあ。 】

「・・・」
あの指輪をまだ彼女は身に着けていて。寝るときもということは当然寝るとき以外もずっとしている、ということなはず。と、いうことは。柚子はまだ、私のことを────。
嬉しくて泣きそうになって私は目を閉じた。
そしてそのまましばらくしてから目を開けて。返事を書くためにペンをとる。
いつもは何を書こうか迷いながら書くけれど、今はもう書くことは決まっているから。
一度だけ深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、私はそれを一気に手紙に書いた。

【 ────柚子へ。

  相変わらず元気そうでなによりだけど。あなた寝るときも指輪首 にかけてるなんてバカじゃないの?前から思ってたけど冷房最低 温度にして一晩中つけてたら電気代が大変じゃない、少しは暑く ても我慢しなさい。あと汗かいてかゆいってことはかきむしった りしてるんでしょう?首に跡が残ったりしたらどうするの。寝る ときは指輪はずして寝るようにしなさい。

  ・・・私も、寝るときだけははずして寝てるんだから。 】




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