※百合姫2017/12月号少しですがネタバレしています、未読の方はご注意ください。



出会いと別れはセット。そんなことを漫画で読んだことがある。でも、心のどこかで信じていた。この恋はきっと叶うのだと。結ばれて、幸せな未来が待っていると。
でも現実は残酷だ。こんなにつらい思いをするのなら、もう二度と恋はしない。今はそういう風にしか考えられない。
明日は卒業式。こうして二人で一緒に寝るのも最後。大学生になったら、一人暮らしをするから。そうでもしないと耐えられない。でもいいのだ。これでやっとこの叶わぬ恋から解放されるのだから。
不思議と涙はでない。そう、泣かないで。だって芽衣のほうがきっとつらいはずなのだ。好きでもない人と結婚して。由緒ある藍原家の一員として生きていかないといけないのだから。本当は助けてあげたいけど、今の自分は非力すぎて。大人の決めたことに逆らうことはできない。
寝付きのいい芽衣だからもう寝てるのだろうか。今日は眠れそうにないから、大好きなその寝顔を目に焼き付けよう。そう思って芽衣のほうを見ると。
「芽衣?まだ寝ないの?」
こちらを向いてうつむいていたがまだ寝てないらしい芽衣に柚子はそっと声をかけた。
「眠れなくて・・・」
「そっか。明日大変だもんね。卒業生代表のスピーチは大丈夫?」
「ええ」
芽衣は生徒会長だから大変だ。でもきっと大丈夫だろう。芽衣なら立派に役目をつとめられるはすだ。頑張ってる芽衣をずっと見てきたから間違いない。
「芽衣、寒くない?大丈夫?」
まだまだ寒いこの季節。心配になってそう言ったが、芽衣は答えない。暗がりで芽衣の表情はわからなかった。
「暖房つけたほうがいいよね」
あたしが寒いと感じるんだから芽衣もきっと寒いはず。そう思ってとりあえず枕元の電気スタンドをつける。そして暖房のスイッチをつけた。そして芽衣を見ると。
「芽衣?ど、どうしたの?」
芽衣が泣いていたのでびっくりして尋ねる。
一瞬ためらったが、そっと手を伸ばして頬に触れ、指でその涙をぬぐった。
すると余計にしゃくりあげて泣く芽衣がいたたまれなくなってぎゅっと抱きしめ、その髪を撫でる。
きっとこれからのことが、不安なのだろう。泣きじゃくる芽衣をあたしはきつくだきしめる。こんな風にできるのも今日が最後なのだと思うと胸が痛くなった。
「・・・なさい」
「え?」
「ごめんなさい・・・」
泣いてかすれた声で芽衣が言う。そんな風に言ってくれるだけで、充分だと思った。
「芽衣、大丈夫だよ。芽衣ならきっとうまくやっていけるよ。大変だけど頑張って。あたしも協力するからさ」
これは嘘だ。もうすぐ離ればなれになるのだから。でもそんなことは言わなくても芽衣はわかっているだろう。
「こっちこそごめんね芽衣」
姉なのになんの力にもなれなくて。柚子がそう呟くと、芽衣は顔をあげて、
「・・・違うの、私」
泣き声で必死に訴えようとする芽衣。芽衣が何を言おうとしてるのかわからなくて芽衣の言葉を待つ。
「・・・私も」
「うん」
優しくうなずくと芽衣は声をしぼりだすようにかすれた声ではっきりと言った。
「私も、あなたが好きなの」
だから、いかないで。
あたしの胸に顔を埋めてまた泣きじゃくる芽衣の髪を撫でながら、あたしは信じられない思いでいた。
ずっと。ずっと芽衣もそう思っていてくれたのか。
なんて言ったらいいのかわからず、あたしはただ窓のほうを見つめながらただ考えていた。芽衣と幸せになれる方法を。
しばらく抱き合ったまま、10分はたっただろうか。あたしは心の中で出した答えを芽衣に告げる。
「芽衣、一緒にきて」
「え?」
泣き止んだけど芽衣の目は真っ赤だった。不思議そうに見つめてくる芽衣の顔を両手でそっと包む。
「二人で暮らそうよ」
ね?と微笑んで言うと、芽衣は小さくうなずいてくれた。どうしよう、嬉しい。
「芽衣、大好きだよ」
愛してる。そう耳元でささやくと、
「・・・私も」
聞こえるか聞こえないかの小さい声でそう答えてくれた芽衣をきつく抱きしめて。
二人はいつの間にか深い眠りについた。
明日からは、幸せな未来が二人を待っているのだから。



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