この間の私のお父さんの件があってから私の中の考えは大きく変わった。何より柚子を彼女を誤解してたこと、それがとても恥ずかしく思った。人は見かけでは判断してはいけない、なんてことはわかっていたはずなのに。柚子を。ちょっと言い方は悪いが、ろくでもない人間だと私は見た目で勝手に判断してしまっていたことがとても恥ずかしかった。1番恥ずかしく思ったのは彼女が自分より恵まれてて幸せだと思っていたこと。いくら彼女の過去を知らなかったとはいえ、幸せそうでいいなんて言ってしまったことをひどく後悔している。きっと柚子はそんなこと気にしてないのだろうけど。
それで私の考えが変わった、それは理解したのだけど。ひとつ理解できないことがあって今とても困っているのだ。あの件のあとから湧き上がってきた気持ち。柚子を好ましく思うようになったのだけど。それはきっと私が彼女を人間的に好きになったからだろうと。それはわかる。でも。ずっと一緒にいたい、もっと話をしたい。彼女の一挙一足が気になって仕方がない。もっと柚子のことが知りたい。これは何だろうと考える。家族になったからならお母さんに対してもそう思うはず。でも対象は柚子だけ。いくら考えてもわからない。こんな感情は生まれて初めてだから。この気持ちの正体が知りたい。でも人に尋ねることは何故かためらわれた。そうだ、明日図書室で本で調べてみよう。そう決めて今日はもう寝るべく布団に入ると柚子が部屋に入ってきた。
「あ、芽衣もう寝るんだね。じゃあたしも寝ようかな」
失礼しまーすなんて言いながら柚子が布団に入ってくる。
「あのさ」
「?」
柚子のほうに体を向けると柚子は少し照れくさそうに笑って私に聞いてくる。
「あの。もしかして何か悩んでたりしてない?」
「・・・どうしてわかるの?」
驚いて尋ねる私に柚子は笑って、
「いや?なんとなくかなあ」
柚子は何故こんなになんでもわかるのか。柚子が鋭いのかそれとも私が鈍いのか。
「芽衣は頭いいからきっと色々余計なことまで悩んじゃうんだね。頭いいってうらやましいけど大変だねえ」
反論しようと思ったが眠気が押し寄せてきて思わず目をこする。
「眠そうだね寝ていいよ。明日朝早いんだっけ?ちゃんと起こしてあげるから安心して」
眠気に勝てずそのまま目を閉じて。眠りの世界に入る前ぼんやりと思った。やっぱり一緒に眠れるのは嬉しいな、と。

ただいま授業中。柚子が気になって仕方ないが私は柚子の前の席だから彼女を見ることができない。柚子からは私が見えるのになんだか不公平だななんて思っていると。
「あい・・・いえ。柚子さん?」
「え?あたしですか?」
「他にいるのかしら」
「はあ。なんか用ですか?」
「次あなたの番ね」
「え?な、何が?」
「次あなたが朗読しなさい」
「あれ。順番おかしくないですかね」
「いいから早く18ページから読みなさい」
「あっパワハラだ」
「読みなさい!」
「は、はい」
教科書を開いて柚子が読み始める。なんかすごく嫌な予感がした。
「・・・」
「まさかとは思うけど一文字も読めないなんてことはないわよね?」
「あはは。そうだったらどうします?」
「・・・もういいわ、あなたに期待した先生がバカだったわ」
「そう、過度に人に期待するのは自分の身をほろぼし」
「うるさい」
「う。すいません・・・」
「まあいいわ。じゃあ誰でもいいから読んでもらおうかしら」
「自暴自棄ってやつですね」
「柚子さん黙って」
みんな笑ってるが私は笑えない。気のせいか頭痛くなってきた。
「とりあえずじゃあ前の席の谷口さん読んで」
「・・・」
「笑ってないで早く読みなさい」
私はため息をつきながら谷口さんが笑いをこらえながら必死に朗読するのを聞いた。

放課後。今日は生徒会の仕事は朝にすませてしまったのでこれはチャンスだと思いこの気持ちの正体を探るべく図書室へきていた。しかし一体どんな本を読めばいいのだろう。とりあえずうろうろしながら棚を見ていると心理学のコーナーまできた。そうだ、気持ちを知りたいなら心理学の本がいいかもしれない。そう思って本を探そうとしたらある本のタイトルに目が止まった。「恋愛心理学入門」。
「・・・」
恋、か。それはちょっと思いつかなかった。まさか。もしかしたら、この気持ちは恋なのだろうか。いや、でも。恋って普通異性にするものでは。柚子は女の子だから違うだろうか。いやでももしかして。とりあえず読まないことにはわからないだろうと、その本をなんとなくめくって読んでみてある一文が目に止まる。それは私の気持ちを納得するには十分な内容だった。

【ずっと一緒にいたい、相手のことが気になって仕方がない、相手のことを深く知りたい。それが、「好き」ということ】

「うわーマジか〜」
夕飯も食べ終わり二人で部屋に入って座った途端柚子がスマホの画面を見て声をあげる。
「何?どうしたの?」
「明日雪だって〜」
「スマホでそんなことわかるの?」
「うんわかるよー」
なるほど。どうりで今日は寒いはずだ。明日はもっと寒いのだろうか、嫌だな、なんて思っていると。
「あ、そうだ暖房つけてないや」
柚子が暖房のリモコンを手に取ってかざす。
「・・・ん?あれ?何だ?何でつかないんだ?」
柚子が一生懸命リモコンのボタンを押しまくっている。
「暖房がつかないの?」
「うん。えー?なんだよこれ〜」
「リモコンがおかしいのかしら」
「ああ、そうか。電池かえてみるね」
電池あるなんて用意がいいな、なんて思っていると。
リモコンの電池をかえたようで再び暖房のスイッチを入れようとする柚子だったが。
「・・・え?あれ?つかない!なんでー?」
「もしかして、暖房自体が壊れてるんじゃない?」
「げ!それはやばいよ!こんな寒いのに芽衣が風邪ひいちゃうじゃん!」
「あなたは平気なの?」
「ん?あたしは平気だよ、なんか知らないけどあたし寒がりじゃないんだよねえ」
「そう。・・・いいわ、我慢するから」
「えー?だって寒いでしょ〜?」
「早めに布団に入るからいいわよ」
「まだ8時じゃん寝るには早すぎるよー」
「そんなこと言ったって、壊れてるものは仕方ないじゃない」
「そうだけどさあ」
どうしようかな、なんて考えこむ柚子に大丈夫だと言おうとしたのだが、暖房がはいってない真冬の部屋はやっぱりすごく寒くて思わず肩をすくめた。
「だ、大丈夫?」
「ええ」
ほんとは寒くて耐え難かったけどそう答えた。
「やばいなあ。明日もなおらないかもしれないし」
「?どうして?」
「あのね。前にも暖房おかしくなって修理してもらったことあるからわかるんだけど、結構時間かかるんだよ修理って。ほら、この時期ってやっぱり修理依頼がすごいらしくてね」
「・・・そう」
ということは明日もこの寒いのを我慢するのか、なんて思っていると。
「あっいいこと思いついた!」
「?」
にこにこ笑って柚子が私の顔を覗き込んでくる。
「何?」
「あのさ。このあとなんかやることある?」
「別にないけど・・・」
「勉強とかしなくていいの?」
「大丈夫だけど」
そっか、なんて言って柚子が笑うのと、私の体がぐらりと傾くのは同時だった。
「・・・?」
数秒遅れで自分が柚子に抱きしめられてることに気が付く。
「これで、寒くないでしょ?」
「・・・バカじゃないの」
「えへへ」
さっき本を読んだ時にもうわかっていたけれど、こんな風にされて、あたらめて実感する。
もう間違いない。私は。私は、柚子のことが―?。
「・・・柚子」
「うん?」
その胸に顔をうずめて目を閉じたまま言った。
「明日も暖房がなおらなかったら、こうしてくれる?」
柚子は嬉しそうな声ですぐ答えてくれた。
「もちろんだよ」



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