「芽衣〜」
名前を呼ばれて振り返る前に柚子が私に抱きついてくる。そう、とにかく柚子はいちいちしつこく抱きついてくるのだ。これは単にクセなのかと最初は考えていたのだけど気になるのが抱きつくだけでなくやたらくっついてすり寄ってくることだった。さらに。
「どこに行くの?」
私がトイレに行こうと柚子から離れて立ち上がると柚子がそう聞いてくる。その目はとても不安げで。
「トイレにいくだけよ、すぐ戻るわ」
私が言うとほっとしたように照れ笑いしてそっかなんて言ってうつむく。これがしょっちゅうあるものだから気になるのだ。普通トイレとかで席をたっただけでこんなに不安がるものだろうか。なんて考えながらトイレを済ませて部屋に戻るとやはり柚子は嬉しそうに笑ってまた隣に座った私にすり寄ってくる。
「ん?何?」
じっと見た私の視線に気づいて柚子が不思議そうに言う。
「別になんでもないわ」
柚子はたぶん自覚してないと思うがとにかく少しでも私が離れると彼女はとても不安げな表情になるのだった。
「あ、もう寝る時間だね、ほらベッド入ろうよ」
そう言ってベッドまでも私と一緒に行こうとする。断るのは私にはできない。なぜならそうすると柚子はすごく寂しそうな顔をするから。柚子のそんな顔はみたくないから一緒にベッドに潜り込む。
やはりまたできるだけ私にすり寄ってくる柚子。もちろん嫌ではないしそれどころか嬉しいので私にベタベタしまくることを注意なんてしないのだけど。
いつものようにおやすみのキスをして、それから手をつないで眠りについた。

「うー・・・ん」
夜中、柚子の声で目が覚める。こういうとききまって柚子はつらそうにうなされてるのだった。顔を覗き込んで胸が締め付けられる。柚子の目から涙が滲んでいたから。寝ている間に離れてしまった手を探し求めているのか、柚子の手が何か探すようにパタリと動く。無意識のそれでいかに柚子が寂しいのかわかる気がして。その手を握って柚子を抱き寄せた。
すると穏やかな寝顔にかわり安心したようにすやすやと寝息をたてる柚子が愛おしくて。それと同時に私は確信する。柚子がいちいち抱きついてくるのも、トイレに離れただけでも不安そうにするのも柚子の心にぽっかり空いた寂しさの隙間が原因なのだ。それはよくわかっていたはずなのに私はそんな彼女をまたひとりにしてしまった。なんて罪深いことをしたのか、よくそんなことができたものだと今になっては思う。その罪をつぐなうために、あと柚子の心の隙間を埋めてあげるために。私はもう二度と柚子から離れない。
その安心して眠る子供みたいな寝顔にきゅんとして。起こさないようにそっとキスをした。


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