今日はクリスマス。今年こそ芽衣と楽しく過ごすのだ。うん、今年こそ。 「ね〜、芽衣」 教室でちょうど二人きりになったので聞いてみた。 「学校で名前呼ばないでくれるかしら」 「大丈夫だよ誰もいないって。あのさ今日・・・」 「クリスマスでしょ、わかってるわよ」 「生徒会のほうとかは平気なの?」 「ええ」 「やったー!一緒に帰れる?」 「そうね」 「わーい!ますます嬉しいなあ」 で、あたしは今教室に二人きりなことを思い出す。 「何きょろきょろしてるのよ」 「いや、誰もいないか確認しようと思って」 「確認して、何するつもり?」 「うん。何するんだと思う?」 「・・・」 芽衣に顔を寄せてその頬にそっと手を添える。 「誰か来る前に、早くして」 芽衣がそういうのと同時にその唇を塞いだ。 で、手をつなぎながら帰宅中。 「柚子」 「ん?何?」 「ケーキとかはお母さんが買ってきてくれるの?」 「違う違う。あたしが作るんだよ」 「そう。じゃその間何してればいいのかしら」 「あたしの宿題をやってほしいのですが!」 「字でわかるんじゃないの」 「大丈夫!不意の事故で手がつったってことにするから!」 「・・・半分くらいわざと間違い書いたほうがいいかしら」 「半分っておい」 「あ、そうね。じゃ7割くらい間違えておくわ」 「あー。お姉ちゃん傷ついたー」 なんて会話をしてるうちに家についた。 で、エレベーターに乗ると。 「あ、誰もいないね」 「そうね。で、どうして壁際に私を追いやるのかしら」 「いやー芽衣可愛いから!」 「答えになってな、んっ・・・」」 唇を押し付けて、舌を絡ませる。誰もいないからなのか芽衣も抵抗しない。エレベーターの中だと思うとなんか興奮するなあドキドキ。結構やばいなこれ。 なんて思ってたらすぐについてしまったみたいで(高層マンションじゃないから当たり前なんだけど)『ドアが開きます』という声(音?)に二人急いで離れる。 「あー。うちが50階とかだったらいいのになあ」 「そしたら何するつもりよ」 「やだなあわかってるくせに」 「バカなこと言ってないで、降りるわよ」 「うわーん置いてかないでよー」 で、とりあえず降りたのだが。 「あのさあ」 「?」 「たぶん今日ママ早く帰るって言ってたからもう帰ってるかもしれないんだよね」 「それがどうかしたのかしら」 「うむ。どうしようかな」 「何が?」 ・・・。ええい実行してしまえ。あたしは芽衣の手をひいて、 「ちょっとこっちきて」 「?」 うちの隣の非常階段のところまできた。 「ここに何の用があるのかしら」 「だってここなら誰もいないじゃん」 「質問の答えになってないのだけど」 「寒いから手短にすませようね」 「・・・何するつもりかしら」 「うん。何だと思う?」 「この変態」 「あ、わかってんじゃん」 芽衣を抱き寄せてその唇を人差し指でなぞる。 「・・・寒いから早くして」 「わかった」 結局寒さに耐えきれなくなるまでキスを続けた。 「ただいまー」 「あら、二人ともおかえりなさい」 「あ。やっぱりママ帰ってたんだ」 「え?」 「あ、いや何でもないよあはは」 「寒かったでしょう、とりあえずお茶でも飲んであたたまりなさい」 「うん!さすがに非常階段は寒か・・・ってイテテ!芽衣何すんの!?」 「ごめんなさい間違えて少し足踏んじゃったわ」 「少しじゃなくて思いきり踏みつぶされたんだけど」 「お母さん、お仕事のほうは大丈夫なんですか?」 「無視かよ」 「大丈夫よありがとう。芽衣ちゃんのほうこそこんなに早く帰ってきて大丈夫なの?」 「はい」 「あの、ママあたしにはそういう気遣い無いの?」 「いやねママちゃんと柚子のことも心配してるわよ」 「えへへ」 「この間のテストは何点だったの?」 「ママ、それ気遣いじゃないよね。ただの尋問だよね」 「まあ芽衣ちゃんにしっかり教えてもらいなさい」 「ねえそれ悪い点数だっていう前提だよね」 「ほら柚子ケーキ作るんでしょ、早くしなさい」 「うん作るけどさあ」 「宿題とかは大丈夫なの?」 「あ、いやそれは・・・」 「柚子がケーキ作ってる間私がやるって約束したんです」 「ねえ、芽衣それ言わなくていいから」 「あら、でも字が違うのに大丈夫かしら」 「手がつったってことにするそうです」 「芽衣それ言わなくていいってば」 「なるほどね。あ、でも全問正解だと怪しまれるかもしれないわね」 「大丈夫です、7割くらい間違えておきますので」 「ねえ二人とってあたしはバカなの?ねえそうなの?」 「芽衣ちゃん寒いでしょう、お茶いれるわね」 「ありがとうございます」 「あのあたしの存在っていったい・・・って、二人とも待ってよあたしも行くってば〜」 で、あたしはケーキ作り、ママは休憩(何もしてないともいう)、芽衣は二人分の宿題にとりかかるのだった。 「芽衣〜、いる〜?」 もう宿題終わってリビングにいるかなと思ってあたしはキッチンから芽衣を呼ぶ。 「いるけど。どうかしたの?」 「ちょっとケーキ運ぶの手伝って〜」 「ひとりで運べないほどのケーキなのかしら」 「早く〜!」 「わかったわ、今行くから」 で、こっちにきた芽衣はあきれたように言う。 「あなたね。こんな大きいケーキどうかんがえても3人分じゃな・・・」 「そっち持って〜」 「人の話聞きなさい」 「芽衣早く〜」 「わかったわ今持つから」 そして芽衣と二人で協力して(?)ケーキを運ぶ。 「ねえ芽衣、足元気をつけてね」 「わかったわ」 「転んだらケーキ食べられなくなっちゃうからね。あ、でもあたしは別に落としたケーキも食べちゃうけど!!でもほら芽衣はお嬢様だからたとえ綺麗に磨かれた床だとしてもそこに落としたケーキなんて食べ・・・」 「うるさい」 「ご、ごめん」 なんとか(?)ケーキをテーブルに置く。 「よしよし。ミッション完成だ!」 「ねえ」 「ん?」 「これどう考えても余ると思うんだけれど」 「大丈夫あたしが全部食べるから!」 「太るわよ」 「芽衣、あたしが太ったら嫌いになっちゃう?」 「そんなこと言ってないでしょ」 「あ、それはあたしのことが好きってこと?」 「どうしてそうなるのかしら」 「ちなみにあたしは芽衣のことが大好・・・って痛い痛い!耳ひっぱらないで!」 「お母さんいるのよ忘れないで」 「ご、ごめん。でもさー。別にお姉ちゃんが妹を大好きって言ってるのは別に聞かれてもいいんじゃないかなあ」 「嫌よ。だってそしたら私もあなたに同じこと言わなきゃいけないじゃない」 「やだなあ嫌なんじゃなくて恥ずかしくて言えないんでしょ芽衣は照れ屋さんだなあ。大丈夫!あたしはわかってるからね!この前だってエッチしたとき・・・って痛い痛い!暴力反対!」 「静かにしないと殺すわよ」 「うえー。芽衣に殴られて殺されて〜」 「この変態」 「その変態を相手にするほうも変態・・・って苦しい!首しめんのやめてぐふっ」 「あなたは一回死んだらどうかしら」 「いや一回死んだら二度と生き返れな・・・うえー!苦しい!離してー!」 なんて騒いで(?)たらママが来た。 「あら。二人とも楽しそうね」 「どこが?どこが楽しそうなの?」 「柚子静かに」 「そうよ芽衣ちゃんを困らせるんじゃないの」 「あたしが悪いの!?」 「芽衣ちゃんよかったわね今年はケーキたくさん食べれて」 「はい」 「でも、これちょっと余るかしらね」 「大丈夫です、柚子が食べるらしいですから」 「あらそれなら大丈夫ね」 「二人ともあたしをなんだと思って」 「さ、ほらクリスマスパーティはじめるわよ!」 「・・・。はーい。じゃクラッカー持ってくる!」 「もう持ってきたわよはい」 「わー、ママさすがわかってる!よし!ならしまくってやる!」 「・・・あの」 「ん?何?芽衣」 「クラッカーって、何?」 「げ!知らないの芽衣お嬢様だなあ」 「こら柚子悪口言わないの」 「ママの悪口の基準おかしくない?」 「ごめんなさいね芽衣ちゃん」 「いえ」 「あたしそんな悪いこと言った!?」 「ほら早く芽衣ちゃんに教えてあげなさい」 「わ、わかった。えっと。じゃひとつ実践するね」 「ちょっと待ちなさい柚子、説明しないと芽衣ちゃんびっくりするでしょう」 「ん?あ、大丈夫だよたくさんあるからひとつくら試しにやっても」 「そうじゃないでしょ、芽衣ちゃん知らないんだから大きい音したらびっくりするじゃない」 「えー?だってこれってびっくりして楽しむもんじゃん?」 「もういいから早くしなさい。あ、芽衣ちゃん大丈夫よ怖くないからね」 「ママ煽ってどーすんの芽衣マジで怖がってんじゃん」 「いいから早くしなさい!」 「あーわかったよ、じゃやるよ?」 せーの、と(一人で)言ってクラッカーを思いっきり鳴らした。 「やっぱテンションあがるなあもっとやろー。あ、芽衣もやる?」 「・・・これ」 「うん?」 「何が面白いのかしら?」 「え!面白いじゃん!楽しいよ!やりたいでしょ??」 「いいえ」 「あーごめんなさいね芽衣ちゃん柚子まだ子供だから」 「あの、芽衣とあたし同じ年なんだけど」 「16にもなってクラッカーで喜ばないのよ普通は」 「いいじゃん!今のあたしはパリピだもん!」 「またそんな流行り言葉使って。芽衣ちゃんを見習って少しは大人っぽくなりなさい」 「やだなあママ。芽衣はね、こう見えてもパパからもらったクマのぬいぐるみにクマ五郎って名前つけてあたしが料理してる間とかクマだっこして待ってたりするんだよ。あとベアーンが好きだったりするんだよ」 「いいじゃない女の子らしくて」 「子供っぽいでしょ!!」 「あんたお姉ちゃんでしょ」 「誕生日1か月しか違わないんだけど!?・・・って、芽衣?何?」 芽衣があたしの袖をつかんだので何かと振り返ると。 「あの。ケーキ・・・」 「あ?・・・。え?食べたいの?」 「だめかしら」 「あ、いや別にだめじゃないけど・・・」 「そうね早くケーキ食べましょ。ごめんなさいね芽衣ちゃん柚子がうるさいから」 「ママ人のせいにするんだね・・・」 「いいから早くケーキとりわけなさい」 「とりわけるのもあたしの役目なんだね」 「あ、残ったらあんたちゃんと食べなさいよ」 「うん。残飯整理もあたしの役目なんだね。・・・って、ん?芽衣、何?」 芽衣が何か言いたげにこっちをじっと見てるので聞き返すと。 「あの、フォーク・・・」 「あ、そうか。フォークないと食べられないもんね」 「柚子フォーク3つね」 「それもあたしの役目なんだね」 とりあえずあたしはフォークをとりにキッチンへ行く。 「ごめんなさいね芽衣ちゃん宿題大変だったでしょうわざと間違えないといけないし」 「いえ、大丈夫です」 「バカな姉だけど見捨てないでやってね」 「はい」 「聞こえてるぞぉ〜!」 「あ、柚子スプーンと間違えないでよ」 「あたしそんなバカじゃないよ!」 というわけで、とりあえずケーキを楽しくたべるのだった。 「あーおいしかったー。芽衣もおいしかった?」 「ええ」 「よかった!あ、もうお風呂入らないとやばいかな」 「何言ってるの柚子、もう10時よ」 「マジ!?うーんどうしよう」 「今日はもう寝なさい、ほら芽衣ちゃん眠そうだし」 芽衣を見ると目がとろんとしてる。可愛いなあ、ママがいなかったら抱きしめてるのに。 「ごめんなさい朝早かったから・・・」 そうか。芽衣は今日を空けるために頑張ったのだ。 「そうか、じゃもう寝よっか」 「柚子も寝なさい」 「はーい」 「あ、ママはビール飲んでるから」 「うんその報告いらないよ・・・」 眠いのかふらつく芽衣を支えながら部屋に歩いて行った。 部屋に入ってとりあえず芽衣を先にベッドに横にならせて、そしてあたしも寝ようと布団に潜り込んで芽衣を見ると。 「め、芽衣??何で泣いてるの!?」 ぼろぼろ泣いてる芽衣にびっくりして慌てる。 「ごめんね何か嫌だった?」 あたしの言葉に芽衣は首をふる。 「今日・・・」 「うん?」 あたしは芽衣の涙を指でそっと拭いながらできるだけ優しく言う。 「今日、・・・楽しかったから」 「そっか。よかったね、芽衣」 泣き止まない芽衣にあたしは胸が痛くなってきつく抱きしめた。 「来年も、その先もずっとクリスマスは一緒だよ」 「ええ」 そのまま抱き合ってしばらくして、あたしはふと思いついたことを実行することにした。 「ねえ、芽衣。顔上げて」 「?」 腕の中の芽衣が顔上げてあたしを見る。 あたしはその顔をそっと両手で包んだ。 「クリスマスプレゼントがあるんだ」 「プレゼント?」 「うん。目、閉じてくれる?」 芽衣は少し戸惑った様子だったけどそのまま静かに目を閉じてくれた。 「芽衣」 耳元で、そっとささやく。 「・・・メリークリスマス」 そのキスはさっき食べたケーキより甘かった。 |