今日は祝日。学校は休みだから、はるみんからどこか遊びに行こうかと言われてたけど断っていた。そう、なんといっても今日は1日芽衣と過ごす約束をしているから。
しかし、もう朝9時だというのに芽衣はまだ寝ている。
「うーんよく寝るなあ」
寝顔を見てるだけでも嬉しいのでいいのだが、そろそろ起きてくれないと一緒にすごす時間か減ってしまう。
「芽衣、そろそろ起きてよ〜」
つんつんと頬をつつくと、
「ん・・・」
やっと目を覚ましたらしい芽衣が眠そうに目をこすって、そして柚子の顔をじっと見る。
「な、何?」
至近距離でみつめあうことになり焦る柚子。
「・・・寒い」
「え?ああ、もう秋だもんね」
季節の過ぎるのは早いなあ。そんなことを考えていた柚子は次の瞬間思考がフリーズすることになる。
芽衣が柚子にしがみつくように抱きついてきたから。
「め、芽衣?」
「貴方、本当に体温が高いわね」
なるほど。つまり、暖めてほしいわけだ。肌に触れる芽衣の体は確かに冷たかったので柚子からも芽衣をぎゅっと抱きしめる。
「どう?あったかい?」
「ええ」
芽衣が寒くないならよかった。よかったけど。すごくドキドキしていてもたってもいられない気持ちになる。
「あ、あのさ。お昼なに食べたい?」
シーンとしたこの空気に耐えられなくて柚子はなんとか会話をしぼりだす。
すると芽衣は大きくため息をついた。
「芽衣?」
「まったくもう」
「?」
「雰囲気こわさないでちょうだい。今日こうして過ごそうって言ったのは貴方よ」
「う、うん。そうなんだけど」
確かに芽衣の言うことは正しいのだけど、ドキドキして耐えられない気持ちもわかってほしい。
「後で、交代するから」
「は?」
「だから、こうしてること」
そう言って芽衣は柚子の胸に顔をうずめる。
ふむ。なるほど。後でこの立場が逆になるってことか。ちょっと待て、それはいいのか!?
そんなことを考えていると、聞こえてくる芽衣の寝息。
「ちょ、ちょっと芽衣〜、また寝るの〜?」
芽衣は一度寝たらしばらくは起きない。
しばらくベッドで抱きあったまま、うるさい鼓動を我慢しながら時間が過ぎるのを待つ柚子だった。

そしてお昼。
「あ、あのさ。このカレーちょっと辛いかな?」
食事中だろうがなんだろうが芽衣はめったに自分からしゃべらない。だから、柚子から会話をしないとシーンと静まり返ることになるのだった。
「・・・そうね」
「え?うーん。じゃあ次からもうちょっと甘口のほうがいい?」
「別に、これでいいわよ」
「そ、そう?」
・・・うう。会話が終わってしまった。だめだ、なんか、なんか話をしないと。必死に何を話そうか考える柚子に、
「早く」
「はい?」
「・・・早く食べて」
ふと見ると芽衣はもうほとんど食べ終わっている。
「うわー。早いね芽衣」
「・・・だってこの後続きがあるから」
「ん?続き?」
「交代するって言ったじゃない」
「え・・・」
芽衣が顔色一つ変えずに言うものだから「ああそうか」と軽く受け流しそうになるがよく考えたらすごいことを言われてないかこれ。
「嫌なの?」
「いいいやいや!!是非お願いします!」
そう。と小さく呟いて芽衣は席を立つ。
「芽衣?」
「・・・これ、下げてくるから」
だから、早く食べて。そう言われて柚子はまだ半分近く残ってるカレーを急いで食べるのだった。

「あの〜・・・」
「何?」
「な、なんかその。昼間から寝るっていいのかなって・・・」
お昼を食べた後だから、現在午後1時半。
枕元の時計を確認する柚子を見て、芽衣はため息をつく。
「別に本当に寝るわけじゃないでしょう?」
「うんまあそうなんだけど・・・」
もじもじする柚子の手をとって強引に引き寄せる芽衣。
「ちょ、ちょっと待っ・・・」
「いいから、早くして」
そう。芽衣は決められた通りに物事を実行してるだけなのだった。こんなことしてドキドキしないんだろうか。芽衣の表情からはそれはわからない。
・・・ええいもう。こうなったら芽衣の体を満喫(?)してやる!!と半ばやけになり芽衣に抱き着いてその胸の中に顔をうずめる。
うーん。やっぱり柔らかくてあったかいなあ・・・。
そんなことを思いながら、ふと気が付いたことを言ってみる。
「芽衣、ドキドキしてるね」
「・・・心臓の音が聞こえなかったら大変じゃない」
「うーんそういう意味じゃなくて・・・」
相変わらず芽衣の言葉はそっけない。あまり色々言うと機嫌を悪くしかねないので柚子はそれ以上は追求せず、とりあえずこの今のひとときを満喫することにした。
「・・・ん?芽衣?」
背中にある芽衣の手が離れたのでどうしたのかと問いかけるが返事はない。
すると聞こえてくる芽衣の寝息。
「えー。また寝るの芽衣〜」
抗議するように言っても夢の中の芽衣には聞こえない。
「寝てるから、いいよね・・・」
起こさないよう、できるだけそっとその頬にキスをした。

ピピピ、と機械的な電子音が鳴り響く。
「・・・うわ!寝ちゃった!」
知らない間に寝てしまっていたらしい。柚子は慌てて起きてとりあえず目覚ましの音を止める。
ていうか、目覚ましをちゃんと設定してるあたり、さすが頭の固い・・・じゃなかった、真面目な芽衣だなと思うのだった。
時計を確認するともう夕方の4時。
「ママが帰ってきちゃうな〜。芽衣、起きてよ〜」
芽衣が気持ちよさそうに寝ているのでちょっとかわいそうだったけど、さすがに抱き合って寝ているのを見られるのはまずい。なので、なんとか起こすことにする。
「・・・」
起きたらしく眠たそうに目をこする芽衣。
うう、だめだかわいい。
じっと見ていると芽衣も柚子のほうをじっと見返してくる。
「?芽衣?」
「・・・しないの?」
「はい?」
「いつも、起きたらキスするじゃない」
「げ!!」
「・・・別にいいけど」
そう言って体を起こしてベッドから離れようとする芽衣を柚子は、
「するから!!今するからちょっと待って!」
そう叫んでその腕をつかんで引き寄せる。
お互い目を閉じるのと唇が合わさるのは同時だった。
「・・・芽衣」
唇が離れて、お互い潤んだ瞳で見つめあう。
「何?」
「もうすぐママが帰ってくると思うんだけど」
「そうね」
「それまで・・・」
柚子はそっと手のひらを芽衣の頬に当てる。
「こうしていていい?」
芽衣は、イエスの代わりに目を閉じて、近づいてくる柚子の唇を受け入れた。





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