「だから、これはこの公式を使って・・・」
淡々と喋る芽衣の声を聞きながら柚子は必死に頭を働かせる。
「えーっと。あ、わかった!答えは25だ!」
よし、よくやった自分。そう思ってひとりガッツポーズする柚子のすぐ隣で盛大にため息をつく芽衣。
「どうやったらそんな答えになるの」
「え?ち、違うの?」
「違うわよ」
「そ、そうなんだ」
がっくし。せっかく正解にたどり着いたと思ったのに。うなだれる柚子に芽衣はまたため息をつきながら言う。
「もういいわ。少し休憩にしましょう」
芽衣のその言葉にまるで水を得た魚のように急に元気にはしゃぐ柚子。
「やったー!芽衣大好きー!」
「柚子、声が大きいわよ」
叱るように言う芽衣の言葉が耳に入ってるのかどうか。またため息をつく芽衣に、
「はいこれ!」
なんて言って柚子がペットボトルを差し出す。
「?」
不思議そうにそれを見つめる芽衣。
「これ期間限定のオレンジ水なんだよね!ほら、芽衣飲んでいいよ!」
ちょうど喉がかわいたところだったので芽衣はそれを受け取り少し飲む。
「お味はどうですかね芽衣さん」
おいしいって言ってほしいんだろうな。芽衣はそう思ったが実際に結構おいしかったので、
「ええ。おいしいわ」
ペットボトルから口を話してそうつぶやいた。
「よっしゃー。買ってよかった〜」
ニコニコ笑いながらそう言う柚子に、
「あなたも飲む?」
と、芽衣がペットボトルを差し出すと。
「え!い、いいの?」
「いいわよ」
「だだだってこれ」
慌てる柚子に首をかしげる芽衣。
「何?」
「いやあの。もしかして芽衣わかんない?」
「え?」
不思議そうな顔の芽衣に柚子はいたずらっぽく微笑みながら、
「だーかーらー。間接キスですよ間接キ、ス!」
柚子の言葉に顔がかっと熱くなる芽衣。
「な、何言って・・・」
「あー!やっぱりわかんなかったんだー!」
「いちいち大声ださないでちょうだい」
そう言ってすねてそっぽを向いてしまった芽衣に柚子は、
「ごめんごめんおこらないでよー」
そう言いながら柚子は芽衣の頬をつんつんとつつく。
「そういうのやめなさいって言ってるでしょう?」
「あ、やっとこっち向いてくれたね」
今日何度目かわからないため息をつく芽衣とは正反対にニコニコ笑いながら柚子はこんなことを言う。
「大丈夫!普通のキスもちゃんとするからね!」
「え?・・・ちょ、ちょっと待っ・・・」
「やだ、待てない」
隣同士に座ってるので押し倒すのは簡単なことだった。
柚子が半ば強引にキスしてくる。素直に受け止めるのはなんだか悔しくて、芽衣は唇を固く結んだ。
でもそんなことであきらめる柚子ではない。
キスを続けながら、その手が耳に触れる。
「・・・っ」
耳に触れられるとどうしてもその感覚が気になってしまい、唇の力が緩む。
それを見計らっていたように割って入ってくる柚子の舌。
「柚・・・っ」
芽衣は抗議するように柚子の袖を掴む。しかしそんな些細な抵抗はスイッチの入ってしまった柚子には全くの無効なのだった。
「んっ・・・」
思わず無意識に声が漏れる。そばにあった柚子の手に自分の手を重ねて、ぎゅっと握った。そういう風にすれば余計柚子の行為を助長させるとわかっているのに、無意識にやってしまう。
「はぁ・・・っ」
長いキスに息が続かなくなって、お互い唇を離して息をつく。
「・・・芽衣」
「何?」
唇は離れたというのに異常なまでにうるさい鼓動はおさまらない。
「あのさ。明日、祝日でしょ?」
「・・・そうね」
だから何。そう言い返そうとした芽衣の唇は柚子の人差し指でふさがれてしまう。
「はるみんと出かける予定だったけど、はるみんがなんか急に用事ができてだめらしくて」
芽衣は、柚子が何を言いたいのかわからなくてじっと顔を見つめると、柚子は照れくさそうに言った。
「だから、急遽予定変更かな」
まだ言いたいことがわからず不思議そうに見つめてくる芽衣に、柚子は、
「明日は、芽衣とずっとこうしていたいんだけど」
いい?なんて言って柚子は芽衣を引き寄せて抱きしめる。
「・・・芽衣?やっぱりだめ?」
黙ったままの芽衣に柚子は再度問いかける。
「・・・仕方ないわね」
そう言って芽衣は柚子の背中に腕をまわす。
「やったー!ありがと〜芽衣。嬉しいなー」
「・・・うるさい」
芽衣は照れ隠しに冷たく言い放つ。
でもそんなことは今のテンションの高い柚子にはまったく意味のないことだった。
「ごめんごめん芽衣。静かにするから怒らないで」
別に、怒ってない。・・・そう言おうと思ったがなんだか悔しいので芽衣は柚子の背中をつねる。
「いったーい!!暴力反対〜!!」
「・・・黙って」
柚子を黙らせる一番いい方法を芽衣は実行した。
押し付けられた唇が数秒して離れたあと、
「はい、落ち着きました・・・」
そう言って黙り込む柚子。
芽衣は柚子の背中にまわしていた手を離した。
「芽衣?」
「・・・勉強再開するわよ」
「えー!そんな〜」
「また、補習になったらどうするのよ」
「う、うんわかった・・・。あ、じゃあその前に」
「?」
「キスしても、いい?」
頬にそえられた手と近づいてくる柚子の顔に、
芽衣は瞳を閉じてそれを受け入れた。





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