柚子と恋人同士になってから初めて二人きりででかけた。といってもデートではなく単に私が買いたい本があると何気なく柚子に話したら少し遠いけど大きい本屋につれていってあげる!と柚子がしつこくいうものだからその本屋へ一緒に来ただけなのだけど。
本は無事買ったから(ちなみに柚子は何故か買った本を隠していた)帰ろうと今電車に乗ったところだった。ちなみに電車に乗るのはこれが二度目。一度目は柚子が変なことしてきたのを思い出してちょっと頭が痛くなってきたがまあそれは今は置いておくとして。柚子と二人で座ったのは別に構わないけど車内はすいていてというか誰もいないのに何故こんなにくっついて座らないといけないのか疑問に思ったが言うとまた柚子が騒ぎそうなので黙っておく。来るとき15分くらい電車にのったから帰りも同じくらいの時間なはず。だからなんとなく時間を過ごそうと買った本を開いて読み始めて少ししたら。
「・・・?」
左肩に何か重みを感じてそちらを見ると、柚子が私の方に頭を乗せてこちらにもたれかかり眠っていた。その寝顔をなんとなく見つめる。無意識にその顔に手を伸ばして触れようとして我に返った。いけない、ここは外で電車の中なのだ。柚子から意識をそらそうと再び本を読もうとするが頭にはいってこない。ただ、柚子が私に寄りかかり寝ているだけなのにこの湧き上がる複雑な気持ちは一体何だろうか。これが知らない他人なら寄りかかられたら迷惑だし不愉快なはず。でも今は嫌どころかむしろ嬉しいとさえ思う。それは何故かなんてもうわかっている。柚子が恋人だから。自分の恋人、つまりは好きな人───。
そこまで考えたところで誰も見てはいないのにひどくいたたまれない気持ちになってとにかく駅につくまで本に必死に本を読み続けた。

「あのさ、芽衣」
もう寝ようと一緒に布団に入ると柚子が私に聞いてきた。
「今日何かあった?なんか様子おかしいから・・・」
やはり柚子にはわかってしまうようで。迷ったが柚子を心配させるのもあれなので正直に言うことにした。
「その。私はおかしいのかしらと思って」
「ん?何が?」
「今日帰りの電車であなた私によりかかって寝てたわよね」
「うんそうだね。それがどうかした?」
「その時それが気になって仕方なくてごまかそうと何とか本読んだのだけどちっとも内容なんて頭に入らなくて駅につくまでの10分少しがすごく長く感じたの。やっぱり変・・・」
私の言葉はそこで途切れた。柚子の人差し指で唇が塞がれたから。
「変じゃないよ普通だよ。だってあたしたち恋人同士だもん」
柚子が私の顔を覗き込む。
「じゃ、その時芽衣がしたかったこと今してあげるね」
柚子が頬に手を添えてきたからその意味を理解して私は目を閉じる。
すぐに押し付けられた唇はやっぱりとても熱かった。




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