今日は12月22日。もうそろそろ年末なせいかスーパーでタイムセールをやっていたので、あたしは今日の夕飯は鍋にしようと思いついた。芽衣と一緒に食べるようになってから、鍋にするのは初めてだ。芽衣はお嬢様だからきっと鍋なんて食べたことがないんだろうなと思ったので、
「ねえ、芽衣。鍋にしようと思うんだけどいいかな?」
「鍋・・・?」
不思議そうにきょとんとした顔の芽衣が可愛くて、思わずキスしたくなったがなんとかこらえる。いけない、ここはスーパーだ。我慢我慢。
「だめかな?」
「いえ、そうじゃないんだけれど。食べたことないからわからなくて・・・」
「鍋料理知らない?」
「そういうのがあるのは知ってるけど」
「じゃ、鍋にしよ?おいしいよ?」
「でも、何が入っててどうやって食べるのかもわからないから・・・」
「大丈夫!あたしが教えてあげる、心配いらないよ」
じゃあまあ無難に肉と野菜にするかと思い、精肉コーナーへと向かう。
「牛肉は高いから却下だなー。豚肉と鶏肉とどっちにしようかなあ」
「この一番安いのでいいんじゃないかしら」
「ん?」
芽衣が指さしたのを見ると。
「うーん。これ鶏むね肉だよ、おいしくないよ」
「そうなの?」
「うん。脂身がまったなくてぱさぱさしてるんだよ」
「だから安いのね」
「そうだねえ」
だめだ、芽衣に肉の説明してたら夕飯に間に合わない。ここはあたしが早く決めるしかないかな。
「あ!赤どりがセールだ、ラッキー」
「何か、お得なの?」
「うん。赤どりって普段は高いんだよ」
「どうして?」
「んーっと。赤どりって普通のより高級でおいしいんだよ」
「詳しいのね」
うん、誰でも知ってるけどね。・・・と喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「よーし。あとは野菜とつゆだなあ」
「よくわからないけど、あなたにまかせるわ」
わかんないんかい。と思ったがそれは言わないでおく。
とりあえず野菜とつゆの素(キムチ味にしようかと思ったけど鍋初心者の芽衣のために普通の味にしておいた)をぱぱっと買って、芽衣と一緒に店の外に出た。
「・・・ちょっと柚子、行儀悪いわよ」
歩きながらコーラ飲んでたら怒られてしまった。
「芽衣頭固いなあ。別にいいじゃん学校じゃないんだから」
あたしがそう言うと芽衣はため息をつく。
歩き飲みが行儀悪いなんて芽衣はやっぱりお嬢様だなあ。でも芽衣はそこがいいんだな、うん。
飲み終わったペットボトルを買い物袋に入れて、ふと芽衣を見ると。
「あれ?芽衣、手袋はどうしたの?」
手に息をかけてる芽衣に尋ねる。
「忘れたのよ」
「うーん。じゃあ・・・」
「?」
あたしは芽衣の手をとって自分のコートのポケットに入れた。
「これで、大丈夫だよね?」
「ええ」
そのまま手の触れ合う感触にドキドキしながら、家まで無言で歩いた。

「はーい、おまたせ〜」
できた鍋を食卓に運ぶと、
「あら!鍋いいわねー」
ママが嬉しそうに言う。
「柚子、あの・・・」
不安そうな顔の芽衣にあたしは安心させるように言った。
「大丈夫、全部あたしが教えるから安心して」
「あら、芽衣ちゃん鍋は初めて?」
「はい」
「そうなのね〜、じゃあ柚子教えてあげなさい」
「うん。あのね、芽衣。この器に鍋から好きなものをとって食べるんだよ」
「わかったわ」
「・・・あ!ちょっと待った!危ないからあたしが取ってあげる」
なんだかすごく危険なことがおきる予感がしたのであたしは慌ててそう言った。
「はい、おまたせ」
「ありがとう」
「いえいえ。あ。熱いよ、気をつけて」
「ええ」
「あのね、ふーってやるんだよ、じゃないと・・・」
「黙って」
「ご、ごめん」
で、食べる芽衣を見守る(?)。
「ど、どうかな??」
「・・・おいしいわ」
「そっか!よかったー」
そう。ここまではよかったんだ、ここまでは。
「あ、そういえば今日って冬至じゃない」
ママの言葉にあたしは首をかしげた。
「ん?何それ」
「二十・・・」
「え?何?芽衣」
「二十四節気の第22ね。北半球で昼が1番短い・・・」
「あ?ごめん何言ってるのかわかんない」
「あら、さすが芽衣ちゃんね」
「え?何?何なの?」
あたしが言うと二人してため息をつく。何だよー。
「簡単に言うと柚子湯に入る日よ」
「あー、何だそれならわかるよー。でも何で今日なのかな」
「冬至だからでしょ」
「だから冬至って何?」
「さっき芽衣ちゃんが説明したじゃない」
「いやあれわけわかんないから」
「もう面倒ね後でスマホで調べなさい。あ、芽衣ちゃんは柚子湯入ったことある?」
「いえ、ないです」
「あらー。じゃ今日柚子湯にし・・・」
「あ、柚子ないんだよママ」
「え?切らしてるの?」
「うん。いつもはあるんだけど」
「あらどうしようかしら」
「明日買って・・・」
「だめよ今日じゃないと」
「えー?ないんだからしょうがないじゃん?」
「そうだ!」
「?」
「あんた芽衣ちゃんとお風呂一緒に入りなさい」
「な、なな何で!?」
「だってあんた柚子でしょ」
「そっか柚子湯だからね、っておい!全然面白くないよ笑えないよ!」
「いいじゃない何をそんなにムキになってるの」
「ちょっと芽衣もなんとか言って!」
「あら、芽衣ちゃんは柚子と一緒に入るのは嫌かしら?」
「いえ」
「即答するなよ!」
「何、柚子は嫌なの?」
「そそそういうことじゃなくて!」
「じゃいいじゃない」
「うう。だ、だってだってっ」
「ママ先に入るわねー」
「あ、いやちょっと待ってってば!」
「あら先に入りたいの?」
「違う!違うよ、話完結しないで!って、ん?芽衣?」
芽衣があたしをつんつんとつつくので振り向くと。
「?あ、おかわりってこと?」
小さく頷く芽衣。あーもう可愛い、可愛いなあちくしょう。
「はい、芽衣これ、って、あー!ママ話聞いてよー!!」
「ねえ」
「ん?何?」
「これ・・・」
「うん?」
「赤どりなのに赤くないのね」
「・・・」
なんかお姉ちゃんは疲れたよ・・・。
あたしはとりあえず自分の分を食べながら、芽衣に赤どりのことを説明したのだった。

「あの。お先にどうぞ」
結局一緒に風呂に入ることになってあたしは先に芽衣に入るように言った。
「あなた何言ってるの、一緒に入るんでしょ」
「ママいるんだよ!?」
「だから一緒に入るだけよ」
「いやそれがその色々と問題がっ」
「少しは理性を保つ訓練したら?」
「そんな人をケダモノみたいに」
「いいから、早く入るわよ」
「あーもう!入ればいいんでしょ入ればっ」
あたしはやけになって芽衣のあとに続いて風呂に入った。

あたしも芽衣も体を洗い終わって(絶対に芽衣を見ないように頑張った)今二人で浴槽の中にいる。
見ない、見ないぞあたしは。見たら最後絶対我慢できない。事におよんでママに知られたらマジ笑えない。
・・・って。ちょっと待て、なんか隣から規則正しい呼吸の音が聞こえるんだけどこれってまさか。あたしは思わず振り返って芽衣を見た。
「あー!ちょっ、芽衣何寝てるの!」
「ケホケホっ」
「だ、大丈夫?お湯飲んじゃった?」
「ええ、大丈夫」
風呂の中でも寝るのか死ぬっつーの。
よほど眠いらしくて芽衣の目は半分閉じてる。
「いつもこうなの?危ないよー」
「いつもは寝ないけど今日は」
「?」
「柚子と一緒だから安心して眠くなっちゃって」
うっげ。何だその可愛い台詞は。思いっきりキスしまくりたいけどだめだ我慢我慢。でもあたしは無意識に手を伸ばして、芽衣の髪を撫でた。
「やめて」
「え?」
「眠っちゃうからやめて」
「・・・」
「ちょっと、柚子、んっ」
強引にキスするあたしに抵抗して唇を閉ざす芽衣だったけどあたしはそれを解除する方法を知っている。
「・・・っ」
キスしながら芽衣の耳を指でそっとなぞると芽衣びくりと反応する。
閉じてる唇も緩むのでそれを見計らって強引に舌を割り入れる。頭が真っ白になって何も考えられない。舌を絡めあって溶けてなくなってしまいそうだった。
息継ぎのために唇が離れた瞬間に芽衣があたしの肩を掴んで押しのける。
「芽衣?」
「お母さん・・・」
「うん?」
「お母さんが、いるから」
そう言って赤い顔して俯いてしまった芽衣が可愛くて。ママがいるから何?と聞こうかと思ったがやめた。妹をいじめる悪いお姉ちゃんにはなりたくないし。
「わかったよ芽衣、もうしないから。ほら、先に出ていいよ」
「いいわ、あなたが先にでて」
「あー。あたしもうちょっとあったまってくよ、先にでなよ」
「・・・」
「ん?何、どしたの芽衣?」
「ちょっと・・・」
「?」
「今、立てないから」
「・・・あ!さっきのキスがそんなに気持ちよか・・・って痛い痛い!鼻つまむのやめて!」
「うるさい」
「えへへ」
「その気持ち悪い笑いやめてちょうだい」
「はいはい。すいませんね」
と、あたしは立ち上がって浴槽から出て、芽衣に手を差し出した。
「ほら、あたしにつかまって」
芽衣の裸を見ないようにしながら二人で一緒にお風呂を出たのだった。

「芽衣、まだ起きてる?」
「ええ」
あたしに背中を向けて寝てる芽衣を背中をつんつんとつついた。
「こっち向いてよ〜」
「嫌よ」
「な、何で!」
「もう寝たいから」
「あたしが寝られないようなことするとでもっ」
「いつもしてるでしょ。起きながら寝言言わないで」
「わかった、しないしない、何もしないからこっち向いてよ〜」
芽衣がゆっくりとこちらを向く。
あたしが手を伸ばすと芽衣に掴まれてしまった。
「何もしないって言わなかったかしら」
「いや、あの。ほら、なでなでするだけだよ、そのぐらいいいでしょ?」
「・・・好きにしなさい」
「うんそうする」
で、しばらく芽衣の頭をなでなでしていると芽衣の小さい寝息が聞こえてくる。
「あ、寝ちゃったか」
しかしお風呂での芽衣は可愛かったなあ。芽衣が立てなくなっちゃうなんてあたしはキスが上手いのかな??いやあまいったまいった。・・・なんて思ってると眠くなってきた。
「おやすみ、芽衣」
何もしないって約束したから。あたしはいつもしてるおやすみのキスはやめて、かわりにおでこをそっとくっつけてそのまま目を閉じて眠りについた。




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